- 「静雄さん」 「何だ」 池袋の街中で、喧嘩人形と呼ばれ恐れられる青年に極普通の女子高生が抱きついていた。 それは些か奇妙な光景であり、ある人から見たら恐怖対象にもなった。その証拠に、2人の周りに人はいない。 「寒いよー凍っちゃうよー」 「じゃあ早く家帰れ」 「静雄さんと一緒に帰りたい」 コアラの子供のように背中にくっついていた少女は、カタカタと小さな体を震わせていた。 今年上京した名前は、静雄の従兄弟で静雄のアパートに居候して暮らしている。 「まあ今日はもう終わったからいいけどよ。コンビニ寄って帰るぞ」 「や、スーパーにしよう。牛乳とプリンとシャンプーが切れてます」 「まじか」 マフラーを巻いた名前は、制服の下にタイツを穿いている。ちなみに普段は好んで穿いたりしない。今日は本当に寒さに耐えられないのだろう。 「今日の夕飯何?」 「唐揚げ!」 未だに静雄の背中に抱きついていた名前がようやく離れ、嬉しそうに跳ねてマフラーを揺らす。 唐揚げは名前の大好物だ。そういえば昨日の夜に揚げ物をしていた気がする、と静雄は吸い殻を携帯灰皿に入れながら考えた。 「楽しみだな」 静雄がわしゃわしゃと目の前の髪を撫で付けると、名前はへにゃりとくだけた笑みを浮かべる。 「スーパー、コンビニより遠いけどいいのか?寒いんだろ」 んー、と微妙な唸り声をあげ、擦り合わせていた赤くなった手を静雄に差し出した名前は再びふにゃふにゃの笑みを見せる。 「静雄さんがいるから大丈夫です。お互いの手袋になりましょう!」 静雄はあっちを向いたりこっちを向いたりした後、自分より何回りも小さな手を無造作に握って歩き出した。 #恋するバンビーナ title by 自慰様 |