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!来神


学生にとって指折りの楽しみに入るイベント、夏休み。
それを十分に楽しんで終えた彼らの次のイベントは。


「待ちに待った文化祭ですよー!」

玄関から飛び出して、盛大に叫んだのは来神高校の生徒である苗字名前だ。
苗字家からわずかに離れた自宅から彼女を迎えに来ていた臨也は突進され、朝から元気だねと皮肉った。

「だって文化祭ですから!!楽しみだね!!」
「分かったから、早く行かないと遅刻だよ。それとも2人でドタキャンする?」
「出る杭は打たれちゃうよ!早く行こう!!」

今だに夏服のため、名前も臨也も薄い生地の制服を身を纏っている。臨也の半袖のワイシャツの裾を引っ張り、名前は走り出した。


*

「し、し、し、シズ!シズイケメン…!へ、あ、え、シズ!?」
「落ち着け、名前」
「ひいっ!ドタチンもイケメン!」

装飾が施された教室で、着替えを終えた静雄達と名前は顔を合わせた。
達のクラスの出し物は、“メイド&執事喫茶”である。

黒い執事服を身につけ、照れたように教室の隅に立っていた静雄を見て名前は驚愕した。

「本当にかっこいいよ2人共!写メ撮ろっと!」

整った顔のおかげか、金髪と執事服という組み合わせのアンバランスさも打ち消され、静雄と執事服はマッチしている。オールバックの門田も同じく。

「名前もそれ似合ってるぞ。な、静雄」
「お、お、おう……」

一方小柄な名前が着ているのは一般的なメイド服だ。
適度にフリルがあしらわれたエプロンに、膝丈のスカートと、ヘッドドレス。黒を基調としたそれはシンプルながら、彼女によく似合う可愛らしいものだった。

静雄は照れた顔を隠すように白い手袋をはめなおし、気を紛らわせているる。


「名前、可愛いね。馬子にも衣装ってやつだ」
「なぬ!?失礼…な…」

よく知った幼なじみの失礼な言葉に憤慨して振り返った名前は、そこに美少年を見て目を見開く。

「臨也…流石だね。新羅も意外に似合う」

もともと眉目秀麗、容姿端麗な臨也は執事服を見事に着こなしている。新羅も細身なせいか、スラッと身につけていた。
2人共、静雄や門田に比べたら身体こそは細すぎる位だがそこは好みだ。

「4人とも売れそうですなあ」
「名前、変な男がいたら言えよ」

やっと名前を直視できるようになった静雄が、もしゃっ、とヘッドドレスのつけられた頭を撫でて言う。

「ありがとう、シズ」

こうして来神高校の文化祭は幕を開けた。


*

「いぃざぁやぁあああああ!」

文化祭開始4時間後。
不運にも2人の昼休みの時間が重なり、とうとう静雄と臨也の追いかけっこが始まった。

走りまわる2人に装飾を破壊される前に、クラスの全員は新羅か門田か名前を探す。

「門田!岸谷!苗字!」
「あっちに名前ちゃん居たよー」
「苗字ー!来てくれー!!」

昼食のお供にとジュースを買いに行っていた名前は、尋常じゃないクラスメイトの表情に首を傾げたが、すぐに察する。

「シズ、臨也ー。
オムライス食べない?」
「オムライス?」

調理班の友人にハート型のオムライスを2つ注文する名前に、すぐさま臨也が反応した。

「うん!
この名前様が素晴らしい接客スキルを見せてやんよ!
はいはい、お二人様ご案内ですー」

今だに臨也への怒気が抜けない静雄も引きずり、は無理矢理2人を向かい合わせに座らせる。

「お待たせ致しました!愛情たっぷりハートオムライスです!
特別に私の奢りね」

顔を合わせた2人が再び戦争を始める前に、調理班が慌てて作ったオムライスをテーブルに運んだ。

「では、ケチャップで落書きをさせてもらいます!何がいいですか?」
「俺は名前からの“臨也ラブ”がいいな」
「手前ェ!」
「なーに怒ってるのかな、シズちゃん?」

口を開けば喧嘩、喧嘩、喧嘩。
よくもまあこんなにやるよなあ、臨也うざいからなあ、と口喧嘩を続ける戦争コンビを薄い目で見ながら。
名前はケチャップを慎重に動かす。

「はいできた!!」

ドン、とケチャップを置いた拍子に胸元のリボンと、二つに縛られた髪が揺れる。

臨也のオムライスには“LO”。静雄のオムライスには“VE”と、ハート。

「…名前、何の嫌がらせ?」
「はい、シズには特別サービスのあーんだよ!」
「お、おう」

好きな女の子がメイド服であーんをしてくれるという一生に一度しかなさそうなシチュエーションには、平和島静雄も気を取られたらしい。
落書きには全く気づかずに名前と仲睦まじげに食事をしている。

「…」

可愛い幼なじみが接客してくれたとはいえ、大嫌いな奴を目の前に微妙な落書きのオムライスを頂くのは些か不満だと臨也は思う。

「いざやー、何で不機嫌なの」

突然、真一文字にむすっと閉じていた形の整った唇に、スプーンがぶすっと突っ込まれた。

「んぐっ」
「篤と味わえー!んで、笑えー!」

まだ温かい半熟卵とちょうどいい味付けと食感のチキンライスが混じり合い、滑らかな味わいが広がる。最後にトマトケチャップの酸味が残った。
さすが料理上手が集まった調理班のオムライスだ。

「2人共おいしい?」

ニコニコと可愛らしい笑顔で聞かれ、素直に2人も頷く。
こうしてようやく2人の喧嘩も収まり、雰囲気も穏やかになったが-。

「あ、でもこのスプーン、シズのオムライスのだから……間接ちゅーだね?臨也、シズ!」

数秒の沈黙。
2人は、カカッと同時にオムライスをかきこんで立ち上がった。

「名前、美味かった。
このノミ蟲片付けたら一緒にまわろうぜ。何か奢るからよ」
「プッ、シズちゃんいっちょ前にデート誘えるようになったんだ!
それにしてもシズちゃんと同じスプーンでご飯食べちゃったとか、考えただけでイラつくね」
「黙れノミ蟲!それはこっちのセリフだってんだ!!」

テーブル越しに額を付けて唸り合う2人を出口まで押しやり、名前はメイド服の裾を持ち上げて頭を下げた。

「いってらっしゃいませ、ご主人様!」

それから、すぐさま走り出した臨也を追い掛けようとする静雄の執事服の裾を掴む。

「シズ、一緒にまわろうね。
私待ってるから」

名前が柔らかく笑う。
おう、と短く返事をした静雄は絶対にすぐ帰ろうと心に決めて走り出した。


*ときめきラッシュ

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