静雄さんに呼び出された。それはつまり好きな人に呼び出されたということだ。
これがテンションが上がらずにいられるわけがない!と、卒業式が終わって早々私は呼び出された池袋西口公園に走った。

「静雄さーん!お待たせしましたです!」

公園のベンチの横で煙草をふかしている金髪の男の人。スラリとした身体に、整った横顔。
見間違えるはずもなく静雄さんだ。
走って駆け寄ると静雄さんは煙草を持ち歩く灰皿に入れて私にひらりと手を振った。こうして些細な気を使ってくれる優しさも魅力の1つだったりする。いつも優しいけれど!

「こんにちは。お久しぶりです!」
「おう。今日卒業式だったのか?」

何で知ってるんですか、と口を開こうとしてあわてて閉じた。胸に卒業祝いの花、そして手には証書の入った細長い箱を持ったままだった。
はい、と少々羞恥を感じながらもうなずくと静雄さんは優しく頭を撫でてくれる。
座るか、という静雄さんの言葉で私たちは近くのベンチに腰を掛けた。

「それでお話…もうすぐ幽さんの誕生日なんでしたっけ?」
「あー…おう。そうだ」

今日の用件は、もうすぐ誕生日である弟の幽さんへのプレゼントについての相談らしい。幽さんは超人気で有名な俳優、羽島幽平でもある。聞いた時こそ驚いたけれど、よく見れば2人は似ている。

「プレゼントですか…。高校出たての、しかもいちお女の、私なんかの意見が役に立ちますか?」
「お前じゃなきゃ駄目っつうか…。いや、ぜひ聞かせてくれ」
「…うーん、そうですね」

確か幽さんは成人している。そして超お金持ち。物欲がないというわけでもないが、噂によると金銭感覚なるものが変わっているらしい。そして男の人。
何がほしいのだろう?実用的なものなら自分で好きなものを買うだろうし…兄である静雄
さんにしか渡せないもの…。
そう真剣に思考をめぐらせていると、あー、と静雄さんがうなるように声を上げた。
臨也さんでも見つけたのかと一瞬過剰反応してしまったが、どうやら違うらしい。
静雄さんはポリポリとどこか気まずそうに髪をかいている。

「たとえば、お前が俺から貰って嬉しいものってなんだ?」
「私ですか…?」

予想外の言葉に、なんとなく心臓が少しだけざわめいた。返答に、なんだか緊張した。
静雄さんからもらって嬉しいもの…。

「そんなの…なんだって嬉しいです。無機物じゃなくても、その、声かけてもらうだけとか、頭撫でてもらうとか、それだけで…」

途中、ふと自分が何を言っているか理解してあわてて口をふさいだ。なんと、なんと恥ずかしいことを言ってしまったのか。後悔しても先ほどの言葉はしっかり静雄さんの耳に届いて脳みそまで浸透したことだろう。

「い、今のは深い意味は…!」

ぽかんと放心してしまった静雄さんに首がちぎれんばかりに頭を下げようとするが、ガシリと頭を…掴まれた。
大きな手で私の頭をガッチリ固定すると、ガシガシ撫で始めた。嬉しい、しかし突然すぎて脳細胞も首をかしげているようだ。

「えーと…静雄さん?」
「…幽の誕生日の話、アレ嘘だ」
「え…えぇっ!?」

今度はまさかの嘘宣言。
静雄さんは私の頭を再びわしづかみにして下を向かせ、それから言葉を紡ぐ。

「お前の、卒業祝いに欲しいもの聞き出そうと思ってさ。
でも撫ででもらうだけで嬉しいって言うからよ」

静雄さんは照れ臭そうに言う。今は静雄さんの手に邪魔されて見えないけれど、ちょっと照れてるんだろうなあとか考えると破顔してしまう。

「えへ…嬉しいです。ありがとうございます」
「でもよぉ、本当にこんなんでいいのか?ほかにしてほしい事とか無いのか?」

こうしてわざわざ卒業祝いなんて考えてくれるだけで充分で、そして私は今死ぬほど幸せだ。
だけど、今日は静雄さんに甘えてみようか。そしてほんの少し、勇気を振り絞ってみようか。
静雄さんからの嬉しいサプライズは、そう私の背中を押してくれた。
だからー。

「じゃあ1つだけ、私の話を聞いてください。お願いとかじゃなくて、お話を聞いてくれるだけで…いいんです」
「おう」

静雄さんの穏やかな笑みに胸が締め付けられた。
私が2文字の言葉を口にするまで…あと、数秒。


#恋心は完成間近
Title by Memory Girl様




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