「こんにちは!俺、黒沼青葉っていいます」
「…へ、あ、苗字名前です」

…条件反射で自己紹介してしまった。
―にこにこ。
突如目の前に現れた、中学生みたいな容姿の童顔の男の子。貧血で体育を休もうと廊下を歩いていたわたしを、さも待ち伏せしていたかのように呼び止めた。

「知ってます!名前先輩!」
「え…?そうなんだ…?」

黒沼くん、は人懐っこい笑みでさらにわたしと距離をつめてそう言った。いきなり名前呼びなのも気になったけれど、何故名前を知られているのか、何の用なのか、次々と疑問の渦は深まる。

「帝人先輩と仲良いですよね?よく一緒にいるの見て、話してみたいなあと思ってました」

そう聞いて、つい最近帝人くんが話していた後輩のことを思い出した。そうだ、確か青葉くんって言ってた気がする。

「そうなんだ。帝人くんね、この前黒沼くんのこと話してたよ」
「何か照れますね…。あ、先輩、青葉でいいですよ?」
「じゃあ、青葉くん?」

名前を呼ぶと青葉くんはまた笑った。この子、年上にモテそうだなあ、とつい笑顔に魅入る。ちょっとした沈黙が訪れようとしたとき、授業開始のチャイムが鳴り響いた。

「名前先輩、具合が大丈夫なら屋上で一緒にサボりません?」


*
「ミルクティー飲めますか?」
「うん、大丈夫」
「じゃあどうぞ」

不思議なことにわたしが貧血なのを知っていた青葉くんは、屋上に来るまでに細かに気をつかってくれた。いい子なんだな。
青葉くんが渡してくれた温かいミルクティーは、猫舌のわたしにはまだ無理そうだ。冷まそうと、プルタブを開けて湯気を眺める。

「先輩は彼氏とかいるんですか?」
「か、彼氏?」
「はい!先輩可愛いですし!」
「いや、青葉くんお世辞が上手だなあもう。……いるよ、一応」

そう肯定した刹那、ぎらりと、青葉くんの目が光った気がした。まるで喜ぶような、何とも形容しがたい形で。

「へえ!もしかして帝人先輩とか!」
「いやいや違う!この学園じゃないよ。もっと、ずっと年上の人」
「意外ですね。大学生とか?」
「大学も出てて、今は社会人だよ」

こう、改めて恋仲の人について聞かれると小恥ずかしいものだ。青葉くんといえば、人懐っこい笑みに戻っていた。

「随分年上の人なんですねー。どんな人なんですか?かっこいいですか?」
「顔は、かなり、かっこいいかな。性格は何とも言えないけど…」「そうでしょうね」

…ぐっ、と呼吸が詰まった。思わず青葉くんの方を振り向くと、笑っている。

「え、今…」

まるでわたしの彼氏を知っていたような、そんな口ぶり。
先程のような人懐っこい笑みは、すっかり灰色になっている。

動揺を隠せないわたしの手首を、青葉くんはいきなり掴みあげた。
同時に手にしていたミルクティーの缶が太ももに落下し、液体をぶちまけてからコンクリートに転がる。熱い、まだ十分に冷めてない。
青葉くんに掴まれた手首も、だんだん痛みを感じていた。

「青葉くん、いたい、はなして」
「先輩の彼氏、折原臨也でしょう?」
「は…」

今度は、押し倒された。
彼氏が、臨也がやるような優しいやり方じゃない。座っていたベンチに力付くで倒されたせいで、頭やら何やらをぶつけた。

「あんな奴と付き合う位だから、変な人かなあと思ってたんですけど…。普通ですね、普通に可愛いですよ名前先輩」
「青葉くん、何言ってるの……ひゃ、う」

完全にマウントポジションについた青葉くんの手が、わたしの太ももを這った。じんじんと、ミルクティーのせいで熱かった皮膚にいきなり冷たい手はびっくりする。

「火種と一緒に、先輩のことも奪いたくなりました」
「ひだね…?」

青葉くんは、話しかけてきた時とはもう別人だ。真っ黒な影を被った笑顔は、もうわたしにとって恐怖の対象でしかなかった。


#汚れた白


*
!title by 自慰様
中途半端ェ…




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