- 9月、季節は秋。 しかし実際はまだまだ夏のような高い温度が続いている。そんな中、炎天下のグラウンドには人があふれていた。 そう、もうすぐ体育祭があるのだ。 「いやあ、相手が竜ヶ峰で良かったなー」 まさか二人三脚が男女同士とは、不覚だった。しかし相手は男子で唯一話せる相手。竜ヶ峰帝人君だ。 「僕も苗字さんで良かったよ」 「本当は杏里がよかったかなー?」 「そっ、そんな!」 名前の割に大人しい彼は、とても分かりやすい性格をしていた。今だってチラチラ、トラックを走る杏里に目線がいっていた。杏里足速いなー、スタイルもいいし。 「じゃあ、やりますかー 私ヒモ結ぶね」 「あ、ありがとう」 しゃがんで、竜ヶ峰と自分の足をしっかり結ぶ。きつくない?、そう聞くために顔をあげた瞬間に私の心臓は止まりそうになった。 「っあ、ごめんね」 あげた先には間近に竜ヶ峰の顔。男子に面識のない私にはハードルが高い。 「いや、僕こそ…!」 (絶対顔赤い!) 羞恥に飲み込まれないように、私はぐるりと向きを変えて、彼と距離を置こうとした。足が繋がっているのを忘れて。 「苗字さん!」 私の足はぴん、と張ったヒモに引かれる。そして体は重力のまま地面に。 ああ、せめて竜ヶ峰が転ばなきゃいいな。 「危なかった…」 つぶやいたのは、竜ヶ峰。 私の体は竜ヶ峰の腕で、不安定に支えられていた。お腹にまわされた腕を意識したとたん、羞恥心に襲われた。 「ごめん…」 「いや、転ばなくて良かったよね」 ああもう、何で心臓がうるさいのか。これじゃもう顔見れないじゃないか! (彼も“男の子”) * 正臣の予定が帝人になりました |