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「じゃあ、白ちゃん!
偵察行ってらっしゃい!」

私には語尾にハートが見えた。
可愛い笑顔のリコカントク。
しかし高くて可愛い声で発せられた私への命令は、非常に辛いものであった。泣いていいかな?

「カントク!海常は、神奈川ですよ…?」
「大丈夫。一時間かかんないから!はい、これ2年で割り勘した交通費。こっちが記録用のノート」

あれよあれよ。
カントクの方が適役だとか、私には無理だとかいう説得は即効で却下されまくり。
いつのまにか私は神奈川の海常高校の前にいた。

カントクは今、海常と練習試合をする予定で交渉を行っているらしい。(これはまだ秘密の情報だ)

私は黄瀬君へのお土産であり、自分へのご褒美でもある凍ったスポドリを握りしめながら、びっくりする位大きい学校を見上げる。
鼻の先にある校門は多分正門じゃないけど、それでも充分大きかった。


6限をサボって来たから、今は部活が始まるくらいの時間のはず。そして黄瀬君から、これから部活っス!というメールが数分前に来ていたから確かだ。

「…え、これどうしよ」

よく見なくても私は誠凛の制服だし、場所は分からないし、そもそも中に入れるのかな!?
最終手段として黄瀬君に事情をメールしてから、唾を飲んで門に踏み入る、が、何を間違えたのか…あ、力みすぎたのか?兎にも角にも私は転んだ。割と激しく。落ちていた小枝が刺さった気がした。
胸ポケットに入っていたスマホがカシャン、と切ない音をたてて滑り落ちる。

「っ…」
「あれ、君他校の子?大丈夫?」

…うわ、死にたい。
情けなくコンクリートに四つん這いになったまま上を見ると、すらーっと背の高くて体格の良いお兄さんが私を見下ろしていた。

「……バスケ部」
「え?」
「バスケ部ってどこなんですか…」

膝の痛みから、涙目でそう漏らすと、お兄さんは切れ長な目を丸くして私を見る。もしかして黄瀬目的?と言いながら。

「てか携帯。すごい鳴って…あれ、黄瀬?電話、黄瀬から」

お兄さんが落ちていて且つしつこく振動するスマホを拾い上げて、画面に表示されている『着信:黄瀬涼太』の文字を見て再び目を丸くした。

「……違ったらごめん。君さ、宇佐美白ちゃん?」

…私はいつから知らない人に名前が割れちゃう人間になったんでしょう!

疑うようにしてお兄さんを見上げていると、爽やかに笑い、何と拒む間もなく私の身体を抱き上げなさった。ひい!お姫様!抱っこ!

「ひ…やだやだ降ろしてください!腕おれますよお兄さん!私重いです!」
「俺バスケ部なんだ。森山由孝っての」
「オーケー、よく分かりましただから離せ!」

***

「宇佐美っちー!」

結局恥ずかしいお姫様抱っこ(笑)をされたまま体育館らしき場所にたどり着いた私を、犬みたいにわんわん迎えてくれたのは黄瀬君だった。部活を見に来ていたであろう海常の女子生徒が蛇みたいに私を見る。無論、私は蛙なう。

「久しぶりっス!超超会いたかったス!」

森山さんにやっと降ろしてもらい一息付く間もなく、今度は黄瀬君からのわんわんホールド。きゃあああ、と女子の悲鳴。君は私を殺す気か。

「久しぶりだね…黄瀬君。今日写真集買ったんだけど、良かったよ」
「宇佐美っちー!ありがとうっス!大好きっス!」

数日前から、写真集発売だと毎日のようにメールしてきていたのは誰だったか。まあ喜んでくれたし、かっこよかったから良いか。

「てか森山先輩、何で宇佐美っち抱っこしてたんスか?ずるいっスー」
「怪我してたからだよ。保健室連れてこうか、白ちゃん?」
「うっわ!ひどい怪我じゃないスか!?俺が連れてくっスよ」
「なら黄瀬、アップがてら走ってこいよ。今日はミニゲームだ。
おい、笠松。今日は白ちゃんの為に戦うわ」

トントン拍子に話が進む。私は何一つ口を挟む暇がない。とりあえず膝が痛い。小枝抜くの痛そうだなあ。

「…白?ん?お前、他校の生徒か?」
「宇佐美っちは俺の彼女ぶふっ!」
「ちちち違いますすみません!」
「いや、謝られても…?」
「白ちゃん、保健室から帰ってきたらミニゲーム見てってよ!君の為に戦うから」

ひえ…なんたるカオス。とりあえず怖いから囲むのやめてほしい。女子からの目も怖いし。でもこれで堂々と偵察できる。怖いけど媚びを売らなきゃ。

「森山さん!良かったらこれどうぞ!さっきは本当助かりました。試合見ます。頑張ってください!」

来る途中に買った、未開封の凍ったスポドリを渡して笑顔を振りまく。喜んで受け取ってくれた。

「じゃあほら、保健室行くっスよ!おんぶ!」
「え、何で?やだ!」
「アップがてら走るんス。宇佐美っち怪我してるし」
「……重くなったとか言わないでね」



*****
「ちょ、笠松。俺もしかしなくても脈ありなんじゃね?」
「黙れ森山。第一誰だ、あの中学生」
「いや、高校生だよ。黄瀬がよく話してた。白ちゃんっていって、帝光でマネージャーやってたらしい。
あの小動物っぽい感じがそそるよな」
「アホか!…何か高校生に見えなかったな」
「そこがまた可愛い!」

続きます






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