― キセキのマネージャーに就いたのは確か、2、3年前の事である。 中学1年生の3学期位だっただろうか? まだ私と同じ一年生であった赤司君に呼び出されたのが始まりだ。 「宇佐美は明日から一軍のマネージャーをやってくれ」 一軍。 一軍といえば今年全中を勝ち抜いたレギュラー達の集まりだ。もちろん2、3年生も居るが、なんと今年は既に1年が3人。赤司君もその中の1人であった。 「…な、なんで私…?さっちゃんがいますよ、ね?」 赤司君の妙な威圧感に、戸惑い、そして焦る。 一軍には今マネージャーが1人。仲良しのさっちゃん。 彼女はとても優秀な子だ。 私は2軍を担当していた。 「君が有能という話を周りから聞いてね。こっちは桃井だけでは手が回らなくて。 桃井には情報面でのサポート、君には選手が快適にプレイする為のサポートをして欲しい」 よく見ると、赤司君の目は左右で色が違うようだ。すごいなー、と状況に合わない事を思う。赤司君と喋るのは初めてだ。 「で…宇佐美、やってくれるよね?」 よ、ね? 私に拒否権は?YESオアはい的なあれなの?何か赤司君こわい。 「聞けば、緑間も紫原も青峰もお前の事を知っているらしいな」 「それぞれ幼なじみ、クラスメイト、補習仲間…です」 青峰君とはかれこれ、テストの度に顔を合わせている。悲しい仲だ。 紫原君はお菓子くれるし、のんびりしているから話しやすい。比較的仲良しなクラスメイトだ。 「…あ」 一軍という事は、真ちゃんに会えるという事か。 もともと私は、真ちゃんのバスケが好きでマネージャーを始めた。 「……私でよければ、やります」 「助かるよ。ありがとう、白」 「!名前…」 「何なら俺の事も名前で構わない」 そういう問題なのか…? というか赤司君絶対Sだ。将来この人が部長とかになったらやだなー。絶対王政確実。 「…じゃあ、赤司君」 「名前で良い」 「だから赤司君」 赤司君が訝しげに顔をしかめた。え、私何か悪い事したかな?赤司君?え? 「まさか…赤司が名前だと思ってるのか?」 「…ち、違うの?」 みんなに赤司君、赤司君って名前で呼ばれているのだと思い込んでいた私の頭にはクエスチョンマークが浮かぶ。 「赤司って、名前っぽいからっ……ひっ!」 だから私が何をしたと! 次の瞬間には私の顔は、赤司君の手に握り潰さんばかりに掴まれていた。痛いし怖いよ! 「征十郎、それが俺の名前」 「せいじゅ、う…?」 「長いならあだ名でも構わない」 やばい、そろそろ握り潰される。 言い忘れていたけど、ここは昼休みの廊下。 行き交う人は何だ何だとこちらを見るが、赤司君の圧倒的なオーラを恐れて話しかけてはこなかった。 「せ…せーくん」 なんだこれ!私馬鹿みたいだ! 必死にない頭を回転させて出てきたあだ名は、何ともカッコ悪いもので。 「まあ…良いけど。 今日から第一体育館ね」 赤司様は、まだ納得いかないような、しかしながら満足げに私から離れていった。 これが、キセキの皆と過ごすきっかけであり、私と魔王せーくんの出会いでもあった。 |