伊月はモテる。今も、昔もだ。
対する俺とマネージャーは凡人仲間。

「ずっと前から俊くんのことが好きでした…!」


「させるかっ…!」

開口一番、今にも飛び出さんばかりに身を乗り出した馬鹿な後輩のジャージを引っ張り、植込みの影に隠れるよ うに座らせる。 場所は部室近くの体育館裏。目の前では友人が告白され ていて、隣にはマネージャー。何かデジャヴですね、と マネージャーが言う。ああ、と小さく返した。

「今日のお相手も巨乳…。伊月先輩って巨乳に人気なんですかね」
「そういう訳じゃねえだろ…でも確かに多いな」
「最低です主将」
「…」
「いひゃいいひゃいれすきゃぷてん」

絶世のイケメンとまではいかなくとも、整った顔立ちの 伊月は中学からそれなりにモテた。特に先輩達からの評 価は高かったと記憶している。
今告白している女子生徒は俺たちの学年の中でも指折りの美少女だ。 まっすぐ伸びたロングの黒髪と、男なら目が奪われるで あろうバストサイズ。

「…日向先輩、そんなにあの人の身体舐めまわすように見て…! チッ、所詮身体ですか!」

無意識の内にその女子を見つめていたらしい俺をじとっ とした目で見たマネージャーは、涙目ですんすんと鼻を 鳴らしながら告白を見守る。

マネージャーは小さい。 小柄な部類に入るであろうカントクよりも小さく、それでいてちょこちょこと動き回るものだからまるで小動物 だ。

「あの、俊くん。返事の前に聞きたいことがあるの。バ スケ部に仲の良い女の子がいるよね?」

マネージャーは今日誠凛の名前が入ったシャツの上から、帝光バスケ部のジャージを着ている。洗濯の都合があるらしい。

「カントクの事? ショートカットで細い…」

袖や丈が長いのは緑間にもらった物だからと、降旗に説明していたのを昔聞いた。本当にこいつは良く分 からない。

「ううん、相田さんじゃない。 背が結構小さめで、髪は長め。それから試合の時は制服の上からジャージ着てベンチに座ってた。…マネージャーさん、かな?」

そうこうしているうちに、告白は進んでいる。あの子が 言ってんの、確実にこいつの事だろ。 じっとマネージャーを見つめると、苦々しい表情で俺を 見返してきた。
小さい。髪もそれなりに長い。 そして試合の時にジャージを着ている、男子バスケ部の 女子。

「ああ、白ちゃん!」
「…何年生なの?」
「一年生。マネージャーなんだ」

「ややややややばいですって。何で私の名前が挙がるんですか」
「静かにしろ、だアホ」

高く結ばれた一本の髪の束を軽く引っ張ると、リスみた いに鳴いて大人しくなる。

「あの子、彼女?」

そして案の定の展開だ。 伊月白です、と真顔で言ったマネージャーに チョップをかましながら事の進みを見守る。

「や、付き合ってない。白ちゃんは妹みたいなものかな」
「でもすごく仲良いよね? 抱きつかれたり、頭撫でた りしてるのよく見るよ、私」

女子生徒が胸元をぎゅっと押え辛そうに顔をしかめる。 それを見て「あれ胸を強調するためですかね?」と真顔で言ってのけるコイツは本当はヘタレなんかじゃない気 がしてきた。

それにしても、伊月とマネージャーの普段のコミュニ ケーションを思い出すと、恋人だと勘違いされても仕方 がない。いや、待てよ。こいつ結構誰にでもくっついてるし、それはカントクにも例外ではない。ただ単に人に くっつきたがることが多くて、もしかして中学の時三股 をかけていたなんぞ噂を立てられたのはそれが原因 じゃ?でも本人に悪意はないしどうしろってんだこれ。

「…」
「おい、宇佐美?」

どうも隣が静かになり、マネージャーの方を見ると落ち 込んだような面持ちで口をきゅっと結んでいる。 伊月に付き合っていないと言われて落ち込んだ?のか?

「…やっぱり、付き合うとか付き合わないとかははっきりさせたいところですよね…ずるずる…このままじゃダ メだって中学の時から思ってたんですけど」

独り言のようで、でもこちらを見ているマネージャー。 これはまさか相談、というやつだろうか。後輩からの。 ならば誠心誠意答えるのが先輩としての義務だ。 前に黒子と降旗が話しているのを聞いた。帝光の主将と マネージャーが微妙な関係だったと。 マネージャーが言っているのは多分そのことだ。

「そりゃあ微妙な関係よりはっきりしてる方がいいな」
「ですよね…」
「そのためには直接会って、きちんと腹を割って話して みたらどうだ」

俺の言葉に、心なしかマネージャーの目が輝く。先輩! 先輩っぽい!とおまけの言葉つきだ。

「わかりました!やっぱり私ちゃんとせーくんとっ…ふ ぐ!」

感情が高ぶっていつの間にか声が大きくなっていたマ ネージャーの口をふさぎ、バッと膝立ちになっていた体も押し倒す。 俺も慌てて屈んで、静かな体育館裏を盗み見た。あ?誰もいねえし。

「きゃー日向セクハラー」
「うおっ!」

抑揚がまるでないその声の主は、数年聞いてきた友人、伊月の声。
セクハラ!?
慌てて体を起こすと、目の前で困ったような赤い顔をし たマネージャーがびくびくしながら仰向けになっている。あ、俺が押し倒したんだ。

「わ、悪い宇佐美!」

知っている奴とはいえ、仮にも運動部の男子に押し倒さ れるなど嫌だろうと思いすぐに体を離す。 マネージャーは意外にもけろっと、そんなに謝らないで 下さいよーとにこにこ笑って伊月の方へ駆け寄る。

「白ちゃんも日向も、覗きが好きだな」
「はっ!先輩告白うけましたか?」
「受けてないよ。断った」
「さすが!さすが伊月先輩!惚れます!」


俺もゆっくり立ち上がり、ぱんぱんと服についた芝生を はらう。 時間はいつの間にか部活開始時刻に迫っていた。

「日向」
「部活行きましょうよ!」

何だかんだで可愛い後輩である。 たまにはこうして相談に乗ってやるのもいいかもしれない。




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