「君可愛いね!テニス部のマネとかどう?」
「そこの子、ラクロス興味ないかな」
「ねえねえ、チアやらない?」

ま、まるですごくモテる人になった気分である。
昨日、この私立誠凛高校に入学した私は、只でさえちんちくりんでチビな体をさらに小さくしてびくびくしながら校内を歩いていた。

それにしても、流石新設校。
部活の勧誘が戦争状態だ。
しかし、大量のチラシを抱えながら(断れなかった)ふらふら歩く私の入りたい部活は入学前から決まっている。

それにしても、こんなチラシどうしようかなあ。
そんな事を思いながら目的の部活を探していると、横から来た大きな何かとぶつかってしまい、私の身体は飛ばされるように揺らいだ。あ、これは、転ぶな。


しばらくたっても何も感じず、とうとう私は痛覚が無くなったのかなーと思ったのだが。

「…悪い、見てなかった」

でかい、とてもでかい。
飛び抜けた身長の持ち主は、私の襟首を掴んで、事もあろうかそのまま持ち上げていた。

あれ?こんな幼稚園児持ち上げるみたいに簡単に?何てこった。

加えて雰囲気と体格のせいか、彼はとても怖い。…怖いよ!
お前ぶつかってきたな殺すぞ的な展開に発展しちゃうよ勘弁してくださいごめんなさい!

片手で地面に下ろされた私は涙目で、改めて目の前の男子生徒を見る。
真っ赤な髪と、周りを圧倒する雰囲気。まるで虎のようだ。

…ってあれ。
彼を見上げ不意に、そういえばと気づく。

「ひ、が、み…くん?隣の席の」
「か、が、みだ。…あんた、俺の右の小さい奴か」

この人は確か、クラスで斜め前に座っていた。すごく背が高かったから覚えている。何はともあれ、あまり怒っていないようで何より。

「か、が、み君ね。ぶつかっちゃってごめんなさい」

「ああ、いいよ。じゃあな」
「す、ストップ火神君!火神君向こうから来たけど、あっちに男子バスケ部ってあった?」

火神君は不思議そうな表情で私を見た後、軽く肯定の意を口にした。成る程、じゃあここをまっすぐ行こう。
お礼をして立ち去ろうとした私を、今度は彼が止めた。おい、と低い声にちょっとだけびびる。

「男バスってことは、マネージャー?か?」
「うん!」

火神君はしかめっ面で私を上から下まで眺め、そして小さな声でできんのか…と漏らした。聞き捨てならないね!

「私これでも中学時代もマネージャーだったんです!できるよ、仕事!」
「へえ…バスケ好きなのか?」
「大好き!
特にスリーが!こう、シュってネットくぐる感じがね」

…はっ!私は何こんな事を語っているのか。火神君を恐る恐る見上げると、複雑そうな表情であった。…バスケに何か思い入れがあるのかな。

「俺もバスケ部だ。よろしくな」
「え?あ!よろしくね!」
「おう。じゃあな」

今度こそ、火神君と私はお別れをした。
背高いし、体格良いし、バスケ上手そうだなー…。

「…あ」

そんな事よりバスケ部だ!

+++++

どうしてか分からないけど、イケメンな先輩と2人で歩いてるなう。

「マネージャー希望でいいんだよな?」
「は、はい!」

目の前のさらさらな黒髪を追いながら、必死に受け答えをする。先程チラシを配っていた猫口の愛らしい先輩に声をかけたら、このイケメン先輩が案内をしてくれる、ということになり、今に至った。
本当にイケメン…高校って素敵。

「日向、カントク。マネージャー志望連れてきたよ」
「流石伊月君!でかした!」
「おー、とりあえず掛けてくれ」

横長の机が一つに、向かい合わせに置かれた椅子が四つ。
言われるがままに片方の椅子に座ると、反対の椅子にイケメン先輩が座った。眼鏡の先輩と何か談笑している。

そして私の向かいにいらっしゃる可愛い先輩。マネージャーなのかな?

「はい、お茶どうぞ。
まず説明ね。うちは去年出来た新設校で、二年が6人と私でやってるの」

成る程。人数はかなり少ないんだ。でも新設校だし私立だし、施設は綺麗なんだろうな。

「私はマネージャーというよりはカントクとしての仕事が多いから、あなたが入ってくれたらすごく助かるの」
「先輩、カントクさんなんですか?」
「ああ。カントクは毎日俺たちを指導してくれてるんだ」

イケメン先輩が少し自慢げに言うと、カントクさんは照れたように笑う。うああ可愛い…!

じゃあ、と目の前に差し出された紙に目を通して書き込んでいると、見ていたらしい眼鏡先輩が、お、と声を漏らした。な、何か変な事を書きましたか…!?

「帝光中か。何部だったんだ?」

出身中学の部分が気になっただけらしい。ああよかった。こんな早い段階で粗相するなんて、全く頂けない。

「男バスのマネージャーです」
「帝光の男バスの…マネージャー…え、キセキの世代のマネージャー!?あそこって層厚いわよね、何軍を担当してたの?」
「い、一軍です…」

本当にお手柄よ伊月君!
カントクさんは嬉しそうであるが、生憎私はさっちゃんみたいに何かできる訳ではないんですよ…!

「強豪校でのマネージャー経験があるなら、指導に手間もかからなそうね…あ、白ちゃんっていうの」
「はい」

カントクさんは立ち上がって私の隣まで来ると、にっこり笑って(可愛い)ちょいちょいと私に起立を促す。慌てて立ち上がると、私より数センチ背の高いカントクさんからのハグが降りかかった。ひ、ひえええ良い匂い細い可愛いひえええ!!!!

「何よりちまっとしてて可愛いわねー!白ちゃん、よろしく!!」
「へ、わ、あ、ふつつか者ですが…」

「カントクより小さいんだな」
「ああ、小動物みたいだ」

イケメン先輩、私は小動物じゃありませんよ。眼鏡先輩も。声潜めても聞こえてますから。



「ま、マネージャーとして部員さんを全力でサポートします!
絶対に、キセキの世代を倒して日本一になる!」

こうして数日後、私は正式に誠凛高校バスケ部のマネージャーとなった。

####

「火神君、それ何?」
「ああ、これは…」
「宇佐美さんの、屋上での目標宣言です」
「なっ…録画したの!?」
「黒子が録れって」
「すいません、珍しかったもので」


(ヘタレはいつでも波乱万丈)




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