練習後の体育館に、人影がいくつか。
個々の自主練も終えた数人は、何となしに意味もなく雑談をしていた。

「ねえ、黒子君。ずっと気になってたんだけど、白ちゃんって彼氏いるの?」

きっかけはカントクであるリコの一言であった。
練習メニューを書いていた彼女は、遠くで伊月と談笑している宇佐美白を見ながら潜めた声で言う。

「え、宇佐美って伊月先輩が好きなんじゃねえのか、です」
「いや、あれはどっちかというと妹が兄を慕う感じじゃね?」

火神と日向がそれぞれ小声で意見する。黒子はドリンクを飲みつつ、相変わらず表情を動かさないまま答えた。

「微妙です。
でも自然消滅していないなら、もしかしたらまだ赤司君と付き合っているかもしれません」
「赤司って…帝光の主将か」

離れた方で、後ろからやって来た小金井に二つ結びの束を持ちあげられている白に、全員の視線が向けられた。まじか、と日向の引きつった声が響く。

「うさぎだー!」
「ひいっコガ先輩!やめてくださいー!助けてください伊月先輩!」
「うさぎー」
「うーっ」

その様子を眺めながら、黒子はゆっくり口を開く。

「…では、僕が宇佐美さんの恋愛事情を知った日の事を話しましょう」


****

「宇佐美っちー!今年は同じクラスになれたっスねー!」
「白に黄瀬に黒子…か。悪くない」
「三年一緒でしたね。今年もよろしくお願いします」

中学当時、僕と宇佐美さんは三年間同じクラスでした。中三の時も同じで嬉しかったのですが、残念なことに黄瀬君と赤司君も一緒でした。赤司君はご存じの通り、主将でした。

「よろしく、黒子君」
「はい」

彼女は快く返事をしてくれて、僕達は手を取り合いました。安全同盟です。しかしすぐに反応したのは現役モデル(笑)です。廊下で僕と宇佐美さんに抱きついてきました。うるさかったです。

「黒子っちー、宇佐美っちー!俺も混ぜて欲しいっス!」
「ふおお…黄瀬君と一緒、う、ウレシイー!」
「無理してるな、白」

赤司君の言葉にうわあああ、と泣く黄瀬君の尻尾が垂れ下がってしまった気がしました。尽く犬みたいな人です。

「白、俺と一緒で嬉しいだろ?」
「…え」
「……ね?」
「わああああ頭つぶれる!せーくんと一緒とか嬉しすぎる死にそう!」

赤司君と宇佐美さんは昔から仲が良く、名前とあだ名で呼び合ったりしていました。
その時、ふと後ろを通った女子生徒たちの雑談が耳に入ります。彼女達は声を潜めていましたが、そういう声こそ通ってしまうものです。

「あ、あれだよ。男バスの主将とマネージャーのカップル」
「え、彼女って髪長い子じゃないの?」
「違う違う。あの小さい子だよ。超仲良いもんあの二人」

ちなみに髪長い子というのは桃井さんです。小さい子というのが宇佐美さんですね。彼女の身長は今と変わらない位でした。

「あ、赤司っちと宇佐美っち、付き合ってたんスか!?」
「知りませんでしたね」

只でさえ目立つ黄瀬君が大声でそう言ったので、周りの人達が物凄い勢いで2人を見ます。(しかし赤司君がちょっと見返すと皆逸らしました)

黄瀬君は赤司君に詰め寄りましたが、なんなく交わされる為ターゲットを宇佐美さんに変えました。189センチのスポーツマンに揺さぶられて凄まれる、ただでさえ小さくて華奢な女の子を想像してみてください。大型犬と赤ちゃんうさぎみたいでした。

「せ、せーくん」

宇佐美さんは困ったように赤司君の制服を摘まんで、彼を見上げました。昔からちっさ可愛いに定評があった宇佐美さんですので、その仕草には和みました。

「…黄瀬に、説明しないと」
「薄情者!ドS!魔王!」

しばらく悩んだ後、宇佐美さんは小声で言いました。黄瀬君の熱意に負けたんですね。

「付き合ってるといえば、そうかもしれないし…付き合っていないといえば、そうかも…」
「え、え!?どっちなんスか!?」

赤司君は相変わらず含み笑いです。宇佐美さんは眉毛をハの字にして泣きそうにしています。僕が、宇佐美さんを苛めるの、良くないです。と言うと、赤司君は宇佐美さんを抱き寄せました。これが噂のリア充ですか。

「俺と白は付き合ってるよ。中二の初めくらいからね」
「え?」
「そうなんスか!一年…わー、良いっスね!」

宇佐美さんは腑に落ちない感じでしたが、何も弁解はせずに赤司君にくっついたままです。これは確かな証拠だと僕は思いましたね。

****
「…あ、白ちゃんの携帯。電話?」
「おいマネージャー!電話鳴ってんぞー」

リコの側にあったスマートフォンが着信を告げていたが、数秒で切れてしまう。画面はすぐに待ち受けに戻ったが、数人はその待ち受けに釘付けとなった。

「…これ赤司って奴じゃ?」
「本当ですね」

画面には薄く笑う赤司と、楽しそうにピースする宇佐美のプリクラがある。日付のスタンプは、極めて最近の日時が表示されている。

「あー切れちゃいましたか…」
「相手は緑間君だと表示されてましたよ。急用ですかね」
「あ、多分何時に家来るんだーとかだと思う。今日は高尾さんと真ちゃんとタコパなのだよ!」

それについても突っ込みたいが、全員が今聞きたいのは待ち受けについてである。その思いを背負い、黒子は聞く。待ち受け、ちらっと見えたんですけど赤司君ですよね、と。

「あー、うん!たまたま東京に来てて、少しだけ時間取れるって言うから遊びに行ったの」
「やっぱり付き合って…」

火神が自分のその発言に取り乱したが、慌てて周りが取り繕う。

「赤司君がプリクラなんて意外です」
「うん、私もびっくりした。せーくん大分変わってたよ。でも相変わらず魔王だった」

白は笑顔で話し、小金井に呼ばれて席を外していった。水戸部に髪を結び直してもらうらしい。

「何がいい?だって!」
「ポニーテール!」


「何か、マネージャーって色々すごいな…」
「そうね…伊達にキセキの世代のマネージャーじゃねえな」

今日の雑談は、主将とカントクのこの言葉で締め括られた。
次の日から若干尊敬の念を持たれ、白が逆にへたれてしまったのは言うまでもない。




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