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「宇佐美っち、痛くないっスか?」
「お察し……くだ、さい」

黄瀬君におんぶしてもらい、体育館を出た。彼は少し走った後、水道の前で私を降ろして、事もあろうか膝に水をぶっかけなう。痛くない訳ないでしょう!

「少し座って…、脚触るっスよ」
「う…」

私の制服が汚れないようにと、ジャージをコンクリートにひいて座らせてくれた黄瀬君は本当に紳士だ。芸能人オーラがムンムン。

「枝は一応先生に抜いてもらって…とりあえず血は止まったスかね?」
「黄瀬君……痛い…」

こんなに激しく転んだのなんて久しぶりだから、改めて泣きそう。泣いてもいいんスよ、と黄瀬君が脚の水を拭きながら言ってくれたので思わずぼろぼろ涙が出てしまった。いやいや、本当に痛いのよこれ。

「痛いの痛いの、赤司っちにとんでけー」
「……さよなら黄瀬君」
「じょ、冗談っス!」

黄瀬君が割と本気で焦るので、つい笑ってしまう。せーくん、君はまだ恐怖の魔王だよ。

「宇佐美っち、相変わらず脚綺麗っすね」
「ちょ、太ももくすぐったい。あと汚すぎて脳内補正かかってるんだよ黄瀬君」

モデルの黄瀬君に脚を見られるのは、非常によろしくない。贅肉!毛も危ないし!
太ももを触る黄瀬君の手を叩き、洗うために脱いだ、血のついたハイソックスを一旦鞄にしまう。冗談半分で手を開いておんぶ待機アピールをすると、犬みたいに元気いっぱいに応えてくれた。


ぐだぐだと昔の話や雑談をしながら走る黄瀬君は、流石である。全く息を切らさずに一定のスピードを崩さないまま走り、私を保健室まで運んでくれた。

「多分、見た目の割に痛くないわよ」
「あばばばばば無理無理無理」
「あ、宇佐美っち。あれ!」
「ん?何?」

うぎゃああ、と自分の喉から断末魔の叫び。
小枝を抜くという先生に反抗していると、まさかの黄瀬君のこんな単純な作戦に嵌められている間に抜かれてしまった。思ったよりは、痛くない。

それから優しい海常の先生は、喚く私に丁寧に手当てをしてくれた。歩きにくいと思ったら捻挫もしていたらしい。
湿布、ガーゼが貼られた脚、擦りむいていた腕には絆創膏。

「さ、おんぶするっスよ」

「え、いいよ!もう大丈夫!」
「アップっスよ!何ならお姫様抱っこが…」
「おんぶお願いしまーす!」


****

体育館に帰って来ると、ちょうどミニゲームが始まるらしく黄瀬君は近くのベンチに私を座らせてコートの中に入っていった。
周りの人の目が痛いが、まあとりあえず偵察開始。ノートを開いて情報を書き込み、試合を見守る。レギュラー陣の名前と特徴は、さっき黄瀬君から聞いた。

…うーん。ハイレベルな試合だ。さすが強豪。

「高い……火神君が5人いるみたい」

自分で言っておいてなにそれこわい。
ともかく、スペックやらポテンシャルやらが誠凛の何倍も高い。身長…別に誠凛も低い訳じゃないのに。バスケ男子怖いなー。

脅威になるのは黄瀬君だけじゃない。これは―。


*****

「え…あ…白、ちゃん!?どうしたのよその怪我ー!」
「リコカントクーっ!寂しかったです!あとこれは転びました!」

部活が終わるギリギリ前位に誠凛にたどり着いた私は、入り口付近に立っていたカントクにハグ。良い匂い。細い。可愛い。

「お、マネージャー。お帰り。足大丈夫か?」
「伊月先輩!大丈夫です!会いたかったです!」
「っと、汗かいてるぞ?」

伊月先輩は本当に癒しだ。汗をかいてもサラサラな黒髪を揺らして、微笑みかけてくれる。ひとしきり抱きついた後、カントクに偵察ノートを渡した。

「はい、ありがとう!じゃあ日向君にも一応報告してきてね」
「海常の名前は伏せた方が良いですか?」
「そうね!」

これを済ませれば私の仕事は終わりだ。
スキップで主将の元へ行き、偵察から帰った事を報告。

「おう、お疲れ。つか怪我大丈夫なのか?」
「全く大丈夫ですよ」
「そうか。で、その対戦校…どうなんだ?」

あっちい、とシャツで汗を拭う主将にタオルを渡しながら、海常について思い出す。いや、先輩方がすごく強いのは知ってるけど…。うーん。

「普通に挑んで勝てる確率は、私と主将がこれからラブコメ展開になるのと同じ位です」
「成る程、0か」
「よく分かりましたね!!はっ倒しますよ!!」
「何なんだお前は」

タオル渡してあげたのに!失礼な人だね全く。

「でもみんなで頑張れば、大丈夫です。ね、主将?」

にやにやしながら主将を見上げると、クラッチタイムの時みたいな不吉な笑顔を見せる。

「…当たり前だ!分かってんじゃねえか。
宇佐美、偵察ありがとな」

不意に私の頭をくしゃくしゃして、主将が笑った。
その目には確かに、勝利への闘争心が浮かんでいる。怖じ気づきも、諦めもしない。戦いに挑む目だ。

「……試合、頑張りましょうね。私は誠凛の皆さんを信じてます!」

これなら、黄瀬君を。
すぐ横を通りかかった、話を聞いていたらしい黒子君と目をあわせて、私は笑った。

#まずは1人、負かしましょう!





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