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折原臨也と平和島灰菜が顔を合わせるのは、約6年ぶりであった。

「奈倉さん、昔は制服着てたのに大人になりましたね!」
「灰菜ちゃんこそ。いつの間に女の子らしくなったね」

背や髪も伸び、体つきも丸みを帯びた灰菜は、臨也には数段違って見えた。
まさか6年前、新宿の喫茶店で2人、お茶を飲むなんて想像していなかっただろうと思い、臨也は少しだけ口元を吊り上げる。

「でも偶然だね。まさかこんな所で会うとは!」

事実、そんな事はない。全ては臨也の仕組んだ事であり、まさに白々しい嘘なのである。

「はい。でも、何で新宿に?」

小さく首を傾けた灰菜は臨也の言葉を全て信じて、不思議そうに問う。

「実はさ、俺今日新宿に引っ越して来たんだよね」

これは本当。
もっと正確に言うと、静雄を大きな罠に嵌めて新宿に行方を眩ませた、というところである。

「本当ですか?
私も今日から新宿の高校に通うんですよ」
「そうみたいだね。その制服、似合ってるよ」

照れたようにイチゴミルクを飲み干した灰菜からは、甘ったるい香りがふわりと舞う。


「…それ、君の髪色みたいだね」
「え?あ、そうですねー」
「学校で注意されるでしょ?」

細く、ゆるやかなウェーブを描く撫子色の髪は色こそ人工的なものであるが、柔らかそうな質感は髪を艶やかに見せている。
灰菜は少々困ったように微笑み、パラパラ落ちる自分の髪を耳の後ろへと追いやった。

「はい。でも、シズ兄が私にピンクが似合うって言ってくれたから、これは変えません。…染めた時、なぜかシズ兄は親から貰った大切な髪をって怒ってたんですけどね。…シズ兄は不思議です」

うん、不思議なのは君だね。と心中で呟く臨也にとって、目の前の少女は非常に興味深い観察対象だ。
まさかピンクが似合うと言った相手が、髪をピンクに染めてくるなんて。普通は考えない。

「…灰菜ちゃん、久しぶりに会えた事だしアドレス交換しようよ」
「え?私でいいなら」

カラーコンタクトを入れているのか、大きなピンク色の瞳で臨也の赤っぽい瞳を見つめて、へにゃりと笑う。

2人は携帯の赤外線ポートを合わせ、アドレスを交換した。

奈倉、という名前とアドレス。それから電話番号を確認して、灰菜はおもむろに席を立つ。

「では私はシズ兄に呼ばれるので帰りますね。さようなら、折原さん」

そうして流れるように500円玉をテーブルに置き、何の前触れもなく彼女は立ち去った。ピンクの長い髪を靡かせ、身を翻す姿は印象的である。


「…まあ、久しぶりの“ファーストコンタクト”にしては上出来かな」

折原臨也は笑う。

「…シズ兄の言ってた“いざや”に会う前に帰らなきゃね」


愉快な観察対象が、自分の予想を越えることも知らずに。



#ともだち100人つくれない

title by みみ様




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