_ 静雄や臨也、新羅が22歳の時の事である。 「静雄の妹?」 「うん、そう」 今では見慣れた、白衣姿の新羅を視界に入れながら臨也は気になっていた疑問をぶつけた。突然、脈絡なんて無い。 「灰菜ちゃんね。臨也も会った事あるんじゃない?確か今はもう高校生だよ」 「高校生か…」 話題は、静雄の妹について。 静雄は妹に過保護で、灰菜の存在を知られまいと必死に隠していた。(もちろん情報屋の臨也にとっては何の妨害にもならない) 静雄の目を盗み、“お兄ちゃんの友達の奈倉”と言って彼女に会った事はあるが、当時は小学生であった。静雄によく似た顔立ちに細身な体型の少女であった事をうろ覚えしている。 しかし灰菜は全く臨也を警戒しなかったのが、一番印象に残っていた。 「あ、そうだ。灰菜ちゃん結構変わったんだよ」 「何、おしゃれにでも目覚めた?それとも中二病?」 「女の子らしくなったのもあるね。でも一番変わったのは髪かな。中身はあのまま、まさに純真無垢だよ」 「髪?まさか金髪?」 確かあの妹は兄達が大好きだったはずだ。まさか静雄に便乗して金髪にでもしたのか。 「それが、ピンクに染めたらしいよ」 「は?何でまた」 その理由こそ、灰菜が平和島兄弟の一員である証拠であり、臨也を警戒しない理由でもある。 「静雄にピンクが似合うって言われたかららしいよ」 静雄が怪力という異常性、幽が無感情、無表情という異常性を持っているとしたら。灰菜の異常性は、その素直さである。 「あーあ…さすがシズちゃんの妹。どこかズレてるよね」 行き過ぎた素直さと天然ぶり。自分だけの世界。 「ああ、久しぶりに会いたいな。…面白くなりそうだ!」 ***** 「新宿ー!」 撫子色の長い髪を揺らしながら、平和島灰菜は嬉しそうにくるりと身体を回転させた。 真新しいセーラー服は新宿の女子校のもので、兄達に勧められて通うことを決めた。今さっき入学式を終えたばかりである。 2、3年前から一人暮らしを始めた兄のアパートの方が自宅より駅から近いため、灰菜も兄と暮らす事になっている。 「さて、帰らなきゃ」 “池袋にはノミ蟲がいるから、池袋の高校には通うな。あと共学も危ないからやめろ!” これが兄の静雄が新宿の女子校を勧めた理由。 灰菜は新宿駅へと歩を進めながら、ビルの看板へと目を向ける。俳優として活躍しているもう1人の兄、幽が出演する映画の看板だ。 口元を緩め、携帯を取り出した灰菜が看板の写真をカチリとカメラに収めた。 そのまま兄へのメールを作成しようと電話帳を開いた時。 「弟君、いや君にとってはお兄ちゃんか! …幽君、頑張ってるみたいだね?」 黒のコートと髪を揺らし、高そうな革靴を鳴らして突如現れたのは、顔立ちの整った好青年。 「……奈倉、さん?」 その日は平和島静雄が警察に捕まった日であり、折原臨也が新宿へと身を隠すことになった日。 そんな事は知らずに偶然だと勘違いする少女は、久しぶりの再会に屈託のない笑顔を見せた。 #君の足首は、ミルクに浸かっている title by みみ 様 |