全くもって、奥村燐はお手上げ状態だった。

目の前には先ほどからこちらを向かずにクッションとにらめっこをしている(一応)彼女がいらっしゃる。



「花ー、なあー」



何度呼びかけても返事はなし。

彼女は、不機嫌だった。

つい何十分か前までは笑顔で談笑していたというのに、まったくもって話が見えない。ただでさえ不器用な燐が、年ごろの女の子の考えなんてものを理解できるはずがなかった。

ただただ気まずい時間だけが過ぎ、空気を濁していくようだった。


自分が何をしてしまったか、燐はぼんやり考える。自分の部屋といえど、今頼りになりそうな雪男はいない。

ついさっきまで、普通に学校や塾の話をしていた。あとたまにじゃれついてくるクロの相手をしていたかもしれない。ただ、それだけだ。やっぱり理由はわからない。

自分が何故怒っているのか、彼は理解していないようだった。

人付き合い、というか全体的に突っ走るわ不器用だわの彼の事だし、理由なんて一生分からないだろうと花は思った。

むしろこんな些細なことでふてくされている自分がわがままなのだ。早く謝って楽しい時間を過ごすべきだと頭で思っていてもどうも行動に移せない。



「あー、俺ちょっと頭冷やしてくるわ。ごめんな」

気まずそうに、燐が立ち上がって言う。ごまかすようにした伸びと、若干片言の口調。
―ああ、こんなことをしに来たんじゃない。
その一連の動作は花を動かすには十分だった。


「ごめんなさい、燐!」
「うおっ!?」


今日は風が強かった。
ふわふわと心地よい風ではなく、ぶわっとした大きな風。
その風により、空いた窓から木の葉っぱが数枚舞い込んできている。
もちろん燐が驚いた理由はそれではない。


「あ、あ…。花、さん?」
「ごめんね」

腰に力強く抱きついてきているのは他でもなく、さっきまで怒っていた花だ。

やっぱり、訳が分からない。


「クロ君に、妬いてしまいました」


中に舞い込んできた枯葉がぱさぱさ乾いた音と、クロがにゃあっと気まぐれに鳴いた音だじぇが部屋にこだます。

燐の腰に手をまわしている花の体はわずかな震えを伴っていた。もちろんその振動は燐にも伝わる。


「クロに?何で?妬くって、お前…」

かあっと、なぜか不可抗力に顔に熱が集まった。

花とてそれは同じだ。猫にやきもちを焼いて彼氏を困らせるなど、したくてしたわけではないのだ。


「もっと私をかまってください」

恥ずかしくて恥ずかしくて仕方ない2人の、初々しい呼吸音が枯葉と重なる。

燐は彼女の顔を見れないまま返事だけは元気よく、お、おう!としっかり返した。


それから結局いつものように話せるまで再び気まずい時間を要することになる2人だが、しばらくはくっついたままで。今度は笑顔交じりの幸せな数十分を過ごすことになる。


#かわいいわがまま
(title by ashelly様)

Thank you!
リクエストありがとうございました!


▽リクエスト
燐(激甘)

2011/9/20



BLコンテスト・グランプリ作品
「見えない臓器の名前は」
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