- もう私に構わないでほしかった。 何でって私は地味だし華がないし、クラスのムードメーカーであるあの人に釣り合えないからだ。 「花ちゃん!次移動教室だけど、いいのかい!?」 「っすぐに行きますから、前田君も早く行った方がいいですよ!」 今日も今日とて。 前田慶次君は私に絡んできた。 正直、私は前田君が好きだ。はい、好きです。 けれど、私が彼と釣り合わないような人物だと自覚している。それに、もう一つ。 「Hey、花!これ、謙信の奴から」 「っう、あり、がとう…」 私は、異性が、男の人が苦手だ。 目を逸らして一言話すのが、ギリギリの限界。 相変わらずだな、と特にそれ以上私に話し掛けることをしない伊達君にそっと感謝する。 そんなわけで、私は密かに前田君が好きなのだけど、上手く接することができないのだ。 「慶次、今日暇かー?」 「慶次君、放課後遊ぼうよ!」 放課後が、一日のなかで一番嫌いだ。ダメな自分が惨めになる時間であり、息が苦しくなる時間。 早く帰りたいけれど、人がたくさん出入りする時間に出ていくと、男の人と遭遇しやすくなるので仕方なく待つ。 耳にはヘッドホン、手には文庫本だ。 「じゃあな!」「バイバイ!」 さて、と。 人もいなくなったしそろそろ出ようかと、本に栞を挟んだその刹那。 「花ちゃん」 綺麗な声と共に伸びてきた大きな手に、私のヘッドホンは取られてしまった。 大きな手が前田君の物だと分かった瞬間、私は思い切りその手を振り払ってしまう。後悔は、後からやってきた。 「あ…」 カシャン、ヘッドホンは静かに床に落ちた。 「あーあ、驚きすぎだって。はいよ、ヘッドホン」 「…」 恐る恐る、俯いたままヘッドホンを受け取り、無造作に鞄に突っ込む。 「なー花ちゃん、この後遊びに行かないか?」 前田君は私の後ろの席に腰掛けて、にこにこしながらそう言った。いつも連れている小猿はいないみたいだ。 「わ、私はいいです」 「用でもあるのかい?」 前田君は純粋に不思議そうに私に問う。そんなこと言われたって、顔をされたって、私は困る。困るよ。 「私なんかより、明るくて可愛い子を誘ったらいいでしょう…!」 嗚呼。 とうとう言ってしまった。 後悔と、ためていたものを吐き出すかのように瞳から涙が零れる。 「私なんかにっ…、関わらないでください」 前田君は、もう笑ってはいなかった。 きっと軽蔑されただろうと涙を流しながら思う。というか勝手に泣いてる時点で面倒臭いと思われたに決まってる。 「猿が好き」 凛とした声が、静寂に包まれた教室に響く。 前田君は私の鞄の猿のストラップを見ながらそう言った。 「意外とスカート丈は長くない」 よく分からないことを言いながら、前田君は着々と私との距離をつめてくる。 私が後ずされば、彼は前に進んだ。 「成績優秀、運動神経は中の中!」 ひ、と喉の奥で酸素と二酸化炭素が混じり合ったような悲鳴が漏れる。背中に壁があたり、前田君はとうとう目の先、鼻の先状態だ。 「男が苦手で気が弱い」 前田君のごつごつした指に涙を拭われ、顔から火が出そうになる。近いし、触れてるし、恥ずかしいし。 「けど優しくて可愛い」 「うぅっ…」 近い近い、恥ずかしい! 思考回路がショートしそうな私に気づいてか、前田君はようやく私から離れてくれた。 「好きだ、花ちゃん。 俺は君と恋がしたいんだ」 予想だにしない言葉。 ああもう、何で。 どうしてそんな優しい笑顔で、そんな事を言うのか。 「どうだい?」 信じられないと耳を疑っている私を、前田君は大きな体で包み込む。 もう怖くも悲しくもなかった。 「わ、たっ…私も、好きです!」 #ココロ、通信中 (title by ashelly様) Thank you for Kira sama! リクエストありがとうございました! 刄潟Nエスト (学パロ)異性が苦手でネガティブな上コンプレックスの塊な主人公が、クラスメイトのポジティブで押しが強いわりに優しくて男らしい慶ちゃんに片思いし、なんだかんだで最終的に両思い |