- 日本人離れした容姿の青年と、ひどく背の低いの少女。 2人はお互い長い、金色と赤茶の髪を揺らして顔を合わせた。 「久しぶりだな、菜子」 「会いたくありませんでした、エンジェルさん」 場所は正十字騎士団日本支部の客間である。 エンジェルと呼ばれる青年が用意させた、高級そうな紅茶がガラスのローテーブルに寂しく置かれていた。 「冷たいな。何時ぶりだ?」 湯気と良い香りを振り撒く紅茶にも全く反応していなかった少女、菜子はエンジェルとも一切顔を合わせない。 「そんな親しげにしないでください。会ったのは2回目、2年ぶりです」 「2年もたって、まだこの幼さか」 む、と菜子の口が力強く紡がれたのを見てエンジェルは笑みを漏らす。 「エンジェルさんは随分老けましたね!!」 ふて腐れ、そして何故か立ち上がり、ようやく視線を合わせた彼女は懐からあるものを取り出した。 「…聖騎士に銃を向けると? いつからそんなに短気になったんだ」 「私に幼い、とかチビ、とかは禁句なの。ちなみに貧乳は死刑! …大丈夫。山本さんには麻酔弾しか入ってないから」 自分の額に当てられた真っ白な銃を見上げながら、エンジェルは深いため息を一つ。 「調子に乗るな……悪魔の子」 菜子の金色じみた瞳がカッと見開き、細い脚は床を蹴り上げて後ろに飛びのいた。 「相変わらず乱暴で、反吐が出るね」 「喧嘩をけしかけたのはお前だろう?」 「私はあなたの何倍も華奢な女の子だよ? 普通の人は、こんな風に手首を斬ろうとはしない」 「手加減してやっただろう。それにお前は悪魔の子、だ。」 銃を向けていた菜子の手首からは少量の血が伝っていた。 エンジェルが同じく、懐から取り出したナイフのような武器からも血が流れ落ちる。 「アスモデウスに憑かれた少女、まるで神話だ」 「…だまらっしゃい」 ワイシャツの裾を食いちぎって手首を止血した菜子は、小さな身体をソファーに投げ出して紅茶を啜った。 「昔話にすると、アスモデウスに憑かれた少女を救ったのは天使だ」 エンジェルも同じく。 皮のソファーに腰を据えて紅茶を煽ったが、冷めたそれに顔をしかめ直ぐに戻す。 「エンジェルさん、まさか私を救うとか言っちゃう?エンジェルだけに。上手くない、全然上手くないよ!」 「…だから調子に乗るな、小娘。 それにしてもお前がアスモデウスの血を引いてるとは思えない。 奴は色欲の大罪の悪魔。なのにお前には全く、色気がない」 空になった菜子のティーカップに、自分の分の飲みかけの紅茶を注ぎ、エンジェルは立ち上がる。 「菜子、お前が俺を色欲に溺れさせるような事があれば…救ってやろう」 「調子に乗るな、アホ金髪」 ニヤリと笑った菜子も立ち上がり、散弾銃を背負うと踵を返す。 「次会う時は、せいぜい私に手を出して喰われないようにね」 長い髪を翻して立ち去る小さな少女を見送りながら、エンジェルは鼻を鳴らして笑った。 「生意気な」 #紳士淑女の皆々様 (あっちもこっちも頭は子供) title by 自慰様 2011/10/1 |