- 今現在、志摩廉造は祓魔塾に通いだしてからトップ3に入るレベルの危機的状況に置かれていた。 「れ、ん、ぞー!聞いてるのか!」 「き、聞いてはるよ!」 いつものように塾にやって来た志摩の隣の席には、いつもは燐の後ろに座る菜子が待ち構えていた。 そして志摩が座るとすぐに跳ねるように腕を絡め始めたのだ。 不運なことに1時間目は奥村雪男受け持つ悪魔薬学の授業で、彼は早めに来て支度を始めていた。 無論、こちらに目を光らせながら。 「(視線が痛い…!) 菜子、ちゃん?」 「なに?」 「今日は何で抱き着いとるん?」 「今日はね、8月9日もといハグの日!だからこうして塾生みんなにハグしてるの」 教室の皆が疲れきった顔をしているのはそのせいかと、志摩は妙に冷静に納得した。 「出雲ちゃんとしえみのおっぱいと、りんりんの胸板を堪能してきました」 「ちょっ、アンタ何言ってるの!」 「きゃー出雲ちゃん怖いー」 真っ赤になる出雲としえみを見ながら、ほんの一瞬志摩に幸せが訪れる。 羨ましいなあ…、と呟けばガッと隣の席から突然菜子の腕が飛んできた。椅子を引いて立ち上がっている菜子は満面の笑みだ。 「エロ魔神にどーん!」 所謂ラリアット。菜子の細いながらも筋肉質な腕は、遠心力も加わり力強く志摩の首に衝突する。 「ちょ、菜子ちゃん苦し…」 「う、え?」 あまりの圧迫感に生命の危機を感じ、志摩は菜子の手首を掴み、押し返した。 「ちょ、待っ…バランスが?!」 押された勢いで、細い身体が地面へ倒れる。手首を掴んでいる志摩も思わず椅子から立ち上がったが、結局バランスを崩して2人して地面と衝突することとなった。 「いった…廉造ー、」 「ほんま、堪忍な…」 ぐるぐる回る視界が回復してから菜子が辺りを見渡すと、何故か真っ赤な勝呂と燐、しえみに出雲。さらに目を手で隠した子猫丸がいた。 「え、なにこの状きょっ…」 そしてすぐに理解する。 何故かワイシャツの上からガッチリと胸を掴む志摩の左手、右手は手首を掴んでいる。 さらに菜子の脚の間に志摩の膝が挟まり、スカートは盛大にめくれていた。 やがて視界が回復した志摩が、カチリと固まる。 「こ、これ何てエロゲやろな…ラッキースケベチャンス言うやつか」 ぷるぷると赤面と涙をこしらえた菜子に、正直志摩の心情は“辛抱たまらん”だ。つまりお預けを食らった犬状態。 「れんぞ…」 パアンッ! 艶めかしい空気を見事に打ち砕いたのは、銃声だった。 しっかりとした“実弾”は古びた塾の壁にめり込んでいた。 「いい加減にしろ…志摩」 「ヒイイイイ!」 この教室内で菜子と、もう一人銃を所持する人物。 奥村雪男は倒れていた菜子をゆっくりと起こす。志摩はすぐさま勝呂の陰に隠れた。 「ゆ、雪…」 「菜子も、度が過ぎた悪戯は…」 「もうお嫁に行けないいいいい!」 ぎゅっ、と思い切り抱き着いてきた菜子に雪男は久しぶりに完全思考停止したという。 (久しぶりのデレの威力) (胸、柔らかかった…) (志摩、お前は一回往生せや) * |