- 「確か、数年前までは菜子は僕の事好きだったんだよ」 「え、そうなのか?」 「そんなわけないでしょブラコンメガネ撃つよ」 「それが、いきなり敵視してくるようになって…」 「私は生涯りんりん一筋です」 * 数年前。 規則正しく、この現代日本には相応しくない“銃声”が鳴り響く。一定の合間で発砲されたり、連続で何発も撃たれたりと、音はリズミカルに的を射止めていった。 安全装置を外し、彼女が散弾銃という特別大物を使うときの構えをとる。狙いは、四方八方にある悪魔の大きさを模倣した動く的だ。 「3、2、1…」 形容しがたい、激しく爆発的な音がトレーニングルームに響き渡った。何十発もの連射を終え、最後の一発を撃ち終えたタイミングで、少女は反動に耐えられずふらつく。 「あ…」 「菜子!」 ぽす。小さな体は、慌てて背中に回った新たな登場人物によって受け止められた。 「大丈夫?」 「雪、大丈夫だよ。尻餅なんて、佐藤さん使うときには慣れたよ」 「佐藤さん?」 背中を支えてくれていた青年、雪男に少女、菜子は笑う。佐藤さんとは彼女の武器、改造済みの散弾銃(ショットガン)である。 相変わらず、小柄な少女が使ってるとは思えない大きさだ。 「雪は練習しにきたの?」 「ううん。連射の音が聞こえたから菜子だと思って」 「へへ、正解」 「こんなに練習するのは感心だけど、もう日付変わるよ」 雪男に念を押され、菜子は苦笑しながら散弾銃をケースにしまった。 「理事長のところまで送っていくよ」 * 「もう雪も祓魔師かー…何かムカつく」 「菜子だって、竜騎士の資格取れたじゃない」 「学力不十分で剥奪?されたけどね」 トレーニング用の施設を出て、学園内の整った夜道を歩く。草花に囲まれコンクリートで固められた道程は2人にとって慣れた道だ。 「突然だけどさ。 雪のお兄ちゃんとやらに、会ってみたいなあ」 「…どんなイメージ?」 「“雪男、勉強してるか?”キリッ!みたいな感じかな?」 身振り手振りと満面のキメ顔で、雪男の兄の予想象を語る菜子に、雪男は衝動的な笑いを漏らす。 「あまりにも外れだからヒントをあげるよ」 「ヒント?」 「まず、喧嘩っ早い」 「え、意外」 「集中力がない、勉強ができない。けど、お人よしで優しくて料理が上手くて明るくて………可愛い」 菜子は一瞬、一抹だけ耳を疑った。隣を歩く雪男の表情は、いつになく嬉しそうだ。 「かわ、いい?」 「うん。兄さんは可愛いよ?」 頬の筋肉がわずかに痙攣するのを感じた菜子は、おそるおそる艶やかな唇を開く。 「…お兄ちゃん、好き?」 「好きだよ」 仲の良い兄弟だとは、普段の雪男の話から察していたが、これほどか…。 そう、これはまさしく。 「ブラコン…」 淡い恋心と憧れがゆっくりと冷め始めた瞬間である。 2011/7/2 |