私は魔法少女の運命の、全てを知っている。

「ほむらちゃん…」

それは私が契約した時に備わった、人の記憶や心が読める能力でほむらちゃんの頭の中を覗いた結果だ。

「馬鹿ね貴女。勝手に記憶を読んで泣くなんて」

ほむらちゃんは、優しい子だ。
彼女の心と記憶から、その優しさはありありと読み取れる。

「だって、こんなのひどいよ」

ほむらちゃんは真っ黒な髪をかきあげて、相変わらず綺麗な無表情で私に問うた。

「それは、どういう意味で?魔法少女の成れの果てが、という意味?」

魔法少女はやがて魔女になる。
ほむらちゃんの記憶の中で、さやかちゃんがそうなったのを見た今、私は充分その事を理解していた。


「…違う」

否定した私に、ほむらちゃんの瞳の色がわずかに動いた気がした。
くらくら、真っ黒なその瞳と髪に、自分の涙で歪む視界に、目が回る。

「ほむらちゃんは、まどかちゃんのためにって…1人で頑張りすぎだよ!」
「…じゃあ貴女がまどかを助けてくれるの!?」

2人分の金切り声が飽和して室内に融けた。
深く黒い瞳は、私が今までの世界で事実を知りながら協力しなかった事を責め立てているようにも見える。

「助けるよ…!私も戦う!」

だからこそ、だ。
1人で頑張り始めたほむらちゃんを見て、記憶を読んで放っておけるわけがなかった。

「どうして?貴女は今まで自分にも他人にも無関心だったわ。だからこそ、私は貴女を頼らなかった」

金切り声が融けきった部屋に、今度は落ち着いた静寂が訪れていた。
ほむらちゃんは座り直して息をつくと、鋭い視線で再び私を貫く。

「ほむらちゃんが、頑張ってるから」
「…私が?」
「そうだよ」

心、動かされたから。
そう言うと、やっぱりほむらちゃんは意外そうに瞬き。それはそうだろう。今まで本当に無関心だったのだから。

「私も、まどかちゃんを助けたい」

ほむらちゃんの白くて小さな、でもしっかりした柔らかい手を取ってそっと握った。壊さないように、そっと。

「本当…なの?」

初めて聞くような弱々しい彼女の声に、体中がざわめく。救いたい。助けたい。守りたい。

「本当だよ。一緒にまどかちゃんを助けよう」

そんな、脆い契り。
ほむらちゃんは少しだけ俯いて瞳を揺らめかせた後、私の手を握り直した。

悩んでる暇はないし、信じるわと一言。その一言が胸にしみて広がる。
――私は本当はまどかちゃんを助けたい訳じゃないんだ。

「一緒に頑張ろうね、ほむらちゃん」
「…ええ」

――ほむらちゃんを、助けたい。
まどかちゃんを助けられたその時は、そんな本心を打ち明けるのもいいかもしれない。
まどかちゃんに対して盲目な彼女のことだから、多分、そう、とかで片付けられそうだけど。

「えへへ」

へらりと笑う私を、ほむらちゃんが怪訝そうに見つめる。
嘘をついて手に入れた物だとしても、ほむらちゃんとの微かな、重い繋がりは私の真っ暗な未来に急速に光をもたらした気がした。

(彼女のためなら、)

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