― 「ねえ、君さあ!海常のマネージャーっしょ?」 「わっ!結構可愛いねー」 おい、結構って何だ結構って。失礼な奴等だ。 そもそも、何で私はこんなチャラチャラした人達に囲まれているのか。 まず、今日はいくつかの学校が集まって、とても広い体育館で強化練習会が行われた。 ちなみにこれから皆でお疲れ様会をやることになっていて、とりあえず着替え終わるまで待ってろ、と主将に言われていた。 で、そうしていたら柄の悪い兄ちゃん達に絡まれた、と。 「無視しないでよー。名前何ていうの?」 「やっぱあれじゃね?海常は黄瀬がいるからさ!他には興味ない、みたいな?」 「うわ、もしかしてミーハー?」 …何で私、囲まれて寄ってたかって罵倒されてるの。私は帝光時代からのバスケ部マネージャーだし(涼太君が後から入部してきたんだよ!)、バスケが好きだから、その延長でやっているだけだ。 違います、と男達を睨むと彼らは冗談だとケタケタ笑う。 囲まれ、1人に手首を掴まれた。ちょ、痛い痛い! 「てか海常って黄瀬抜いたらどうなの?」 「弱いだろ、実際!だって去年インハイ初戦敗退だぜ!」 堪忍袋の緒が切れるとは、こういう事を言うのだろうか。 こんな訳の分からない男達に、先輩達の悪口を言われるなんて堪えられない。 噛み締めた、噛み合わせのよろしくない歯がキリ、と奇妙な音をたてた。 こんなところでトラブルを起こしてはいけないと、冷静に考えれば分かるはずなのに。振り上げた拳は止まらなかった。 「―海ちゃん」 …耳元で囁くのはやめてください、とあれほど言っている筈なのに。 「森山…先輩」 「てかグーなんだ?さすが海ちゃん」 先輩が私の手首を握っているせいで、どうやら拳が彼らに届く事は無かったらしい。 森山先輩は私の拳を見て笑ってから、身体を引き寄せて、やんわり抱き止める。さすがイケメン先輩だ。手慣れている。 「…海常は、涼太君を抜いてもあなた達の数億倍強くて、かっこいいですよ」 「だって。まあ、俺も思うよ。黄瀬は顔が良いからって、調子乗りすぎだよな」 「森山先輩も涼太君に負けないイケメンさんですよ」 余裕綽々の先輩に腹がたったのか、はたまた私の言葉に腹がたったのか。男達は顔を赤くして掴みかかろうとする。 が、今度も止めが入った。森山先輩より少しだけ小さい(とはいえ私なんかよりずっと大きな)人影は、男の手をひねりあげた。 「去年敗退したのは認める。が、今年は違う。黄瀬の馬鹿が居ても、居なくてもな」 笠松先輩の目付きは、プレイ中の鋭さを持ち、確信めいた光を放つ。ああ、やっぱり海常の主将は笠松先輩だ。強くて、かっこよくて、頼もしい。 「て、めぇ…!手あげたよな、今!問題になったら困るんじゃねえの!?」 男達はその視線に負かされたのか、言い返すことはせずに逆上し始めた。うん、先輩達に助けて頂いたんだから、今度は私が! 「聞いてください、主将!森山先輩! さっきこの人達が無理矢理身体を触って来たんです!」 なるべく、というか超大声で叫ぶ。 ここは控え室がたくさんある、人の通り道だ。何人もの人が私達を見た。 「手首掴まれて、逃げられなくて…」 幸運にも赤く跡になっていた手首を見せると、森山先輩が私を抱きしめる。 周りは明らかに私が被害者だと思い(じ、実際そうだし!)、ざわついた。 さすがに面倒事は嫌なのか、男達は汚い言葉を吐き捨てて去っていく。おととい来やがれ! 「…馬鹿か!」 「ふぐっ!」 場所を、自販機の並ぶ休憩コーナーに移動して落ち着いた所で、主将は私の頭を叩いた。痛い!何の仕打ち! 先輩達に挟まれて椅子に座り、いちごみるくを買ってもらい…ここまでは良かったのに。主将優しい。いちごみるく美味しい。 「主将…何が不満なんですか!あといちごみるくありがとうございます美味しいです!!」 「そ、そうか…。じゃなくてだな!?不満も何も!お前はフラフラしすぎだ!」 主将は片手で私の頬をつまんで引き延ばし、もう片方でデコピンをかます。森山先輩が何故か笑ったので、ストローをくわえたまま睨み付けてやった。 「ほら。そうやって、海ちゃん可愛いからさ」 森山先輩は救急箱から取り出した湿布を私の手首に巻いて、また恥ずかしげもなく可愛いなんて言ったくださった。お世辞でも嬉しい。 「今度絡まれたら、すぐ俺達を呼べ。着替えてても入ってきていいから。分かったな?」 「女の子なんだから、無理しちゃ駄目だよ」 諭すような2人の先輩の言葉に感動して、涙が出そうだった。優しいよ!本当に優しいよ先輩! 「はい!ありがとうございます!」 そして私がいちごみるくを飲み干す頃。 「海」 「え、あ…はい?」 何と。あのツンデレ主将に名前を呼ばれるとは。中々珍しい。 「あー…、えっと、だな」 「海ちゃんが、海常のこと言ってくれたの、俺らは嬉しかったよ。って言いたいんだよ」 森山先輩の言葉に主将は小さく頷く。それはあれかな。強くてかっこいいってやつ。 「いえ、事実を言ったまでですから!」 主将は目を丸くした後に赤面して小さな声で、ありがとなと言い、森山先輩は整った笑顔を浮かべて私を撫でてくれた。 やっぱり先輩達大好きだ! #保護者ですから 森山先輩捏造ですみません 彼がツボで仕方ないのです!残念なイケメン好き! |