- 今まで気がつかなかった怪我を見つけた時に、急にその傷が痛み出すあれ。あれなのだ、今の状況は。 「お、おはようございます今日も快晴さてはて調子はいかがでしょうか」 「いや…海が大丈夫なの」 抑揚のない口調、無表情なのはいつも通り。てか昨日まで私も普通に挨拶してたじゃないか!そう、昨日が全て悪い。昨日、昨日。 『え、お前祐希が好きなんだろ』 何の話だったか分からない。というかどうして要とこういう話になったのか、それが不思議で仕方がない。 『よく祐希にくっついてるし、祐希もお前にくっついてるし』 それは認めよう。 だって、本当に小さい頃から一緒なのだ。家族みたいなもんで。 勢いよく椅子を引いて、祐希の前の自分の席に座る。 千鶴、何故こんな時に来ない。許さん。あとでお菓子カツアゲしてやる。 「…海?」 「ふっ…ぎゃあ!」 首に虫が這ったような感覚。犯人は祐希の細長い指。 「分かった」 「な、何が?!」 まさか、私が急に祐希の事を恋的な意味で意識しちゃった事?バレた?早くない? 「海、今日髪型違う」 …あぁ、なんだ。うん。違うけど! 髪を触られるなんて昔から慣れたことなのに、何だか今日は緊張する。無駄にはしゃいでいた他の女子の気持ち、今なら分かる。 「中学の時、髪型変えたの気づかなかったらすごい怒ってたじゃん」 「ちょ、黒歴史!恥ずかしい!」 心なしか祐希は、若干不機嫌の様子。悠太に構ってもらえない時や、怒られた時みたいだ。 「ねえ、何で避けるの」 相変わらず抑揚はないし、無表情だ。整った顔立ちをまっすぐこちらへ向け、私のポニーテールに結った髪を手で揺らして言う。 「避けてないよ…」 「嘘。朝も先に行ったし、いつもなら俺にべたべたするくせに」 少し、咎めるような声音だ。今にも、もういいよと拗ねてしまいそう。うわああ何でこんなことに助けて悠太! 「ち、違くて、あの」 慌てて祐希の目の前に行って、弁解をしようと頭を探る。事情を説明したら告白みたいになる。でもこのまま喧嘩するのはもっと嫌だ。 「要とね、好きな人の話をしたの。それで、そしたら何か祐希とうまく話せないっていうか、祐希が嫌いな訳じゃなくて…」 嗚呼、上手く言えないけど許してください。要は恨む。ていうか要が悪い。あのかなめがね! 「海さん」 「は、はい!」 立っている私の腰に、座っている祐希の腕が回ってきた。おかしい、昨日までこんなの普通にしてたのに。今更恥ずかしいなんて。 「祐、希さん?」 「それ、話せないっていうのは良い意味で?」 「もちろん…?」 祐希は相変わらずのポーカーフェイス。私は少しだけ熱くなった顔を押さえる。腰がふらふらだ。千鶴の椅子にでも座ってやろう。 「…うわっ」 と、したのだけれど。 祐希の真っ白な手が私を止めた。何だ何だ、恥ずかしい。 「海」 祐希の手は好きだ。白くて、指も長くて血管も出てて綺麗。そんな手に頬を触られて、また体温が上がった気がする。クラスの女子が悲鳴をあげた。 「それ告白だよ」 「皆まで言うな気づいても言わないで恥ずかしい要許さない」 第一祐希が全く照れてない。私なんて恋愛対象では無いことが手にとるように分かって辛い。 「…好きなら避けないでよ」 「好きだから避けちゃうんだよ!」 「俺は海好きで、一緒に居たいんですが」 拗ねた子供のように、祐希は肘をついて窓の外を向いた。私みたいに動揺してないし、顔も赤くないけど。 「…それ、告白ですよ。祐希くん」 頬をつっついた人指し指から伝わる体温は、いつもの彼より高い気がした。 #ベリーベリー、ベリー title by ashelly様 |