- 「要先輩、何でイライラしてるんですか」 「…」 穂稀高校、生徒会室。 綺麗好きな生徒達にによってに整頓された室内はガラガラで、昼休みを謳歌する生徒たちの楽しそうなざわめきが聞こえる。 「…あのなあ、そういう事はとりあえず降りてから聞け」 こめかみ辺りに血管を浮かべて私を睨むのは、1つ上の先輩、塚原要先輩だ。 生徒会ご用達、くるくるの椅子に座る要先輩に覆いかぶさるように、私は先輩の膝の上に座っている。 「ふふん、嫌って言ったらどうするつもりですか!」 「力でどうにかする」 「だが断る!」 要先輩は私を引きずり降ろそうと肩をぐいぐい押して来た。 私も負けじと、ガッと脚を絡めて、しわひとつ無いブレザーに掴まる。 「仕事終わんなくて貴重な昼休み潰してんのに、これじゃまた終わんねえだろうが!」 「だから手伝いの私がいるんでしょう」 「お前が邪魔してんだよ!」 うがあああ、要先輩がいつものように雄叫びをあげた。やがて私を引きずり降ろすのも諦め、脱力したように近くからビニール袋を引き寄せる。中からは良い匂い。 「要先輩、何ですかそれ」 「早弁のとき残しといた昼」 「うわああ美味しそう美味しそう!私にください!」 「ふざけんな!」 「じゃあ一口!」 要先輩の手の中の魅力的な惣菜パン。 目の前のそれに迷いなくかぶりつき、味わう。先輩は慌てたようにうろたえた。(そんなにショックか!) 「むっちゃおいしい!先輩ナイスセンス!」 一口なのに口中に広がる旨味。これは美味。最後まできちんと味わい、有り難く飲み込んだ。 「これは当たりですよ!さあ召し上がれ!」 「………いや、お前にやる」 先輩は眉間のシワをそのままに、そっぽを向いてしまう。こんなに美味しいのに!っていうかこれ先輩のパン! 「ちょ、駄目です!食べてください!」 「いらねえって!」 「いいや、絶対に後悔します!」 「おまっ近い!」 膝の上に跨がったまま、私は先輩の顔を片手で固定させ、パンを突っ込んだ。酸素が取り込めずにふがふが言う先輩は、観念したようにパンを一口貪った。 「どうです!」 「美味い…」 「でしょう!」 「美味いからお前にはやらない」 「ええ!男に二言はないでしょう!」 「ハッ、真面目に働かない後輩にやる褒美はねえぞ」 先輩は二口程かじられたパンを高く掲げて、いつも私を罵る時みたいなどや顔で言う。意地が悪い! くるくる回る不安定な椅子の上、先輩のシャツに掴まりながら私も必死に手を伸ばした。身長差が憎い。 「うわああ!要っち、可愛い女の子と取り込み中だああ!」 「うわあ、要…年上好きじゃなかったんだ」 「…ていうか、取り込み中なら出た方がいいんじゃないんですかね」 何だか入り口が騒がしい。 その声に先輩が手を止めたので、私も手を降ろして先輩のシャツにしがみつく。 「要先輩、お友達ですか」 「…海」 「はいはい」 「降りろ」 「やです」 「降ーりーろー!!」 「いや!」 再び始まる攻防戦。 先輩の顔は真っ赤。入り口付近には先輩の友達?だか何だかよく分からない人達が4人立っている。顔の似てる2人は多分学校で有名なイケメン双子だ!先輩VIP待遇! 「もう!先輩しつこいです!」 「しつこいのはお前だ!!くっつくな! おい小ザル!祐希も!勘違いすんなよ!」 あんまり押して来るので先輩の身体に抱き着いてホールド固め。これはかなり有効だ! 「ねえねえ海ちゃんって言ったよね?要っちとの関係は!?」 「ご主人様と奴隷です」 「アホか!春もマジにすんな!」 ぞろぞろと生徒会室に入ってくる先輩の友人方。個性的だなー。 わいわい、そんなことをしているうちにもう予鈴が学校中に響いた。 「おい海…お前のせいでまた終わらなかったじゃねえか!」 「じゃあ先輩、放課後も頑張りましょう!」 先輩の膝から降りて手を振ると、先輩は呆れたようにため息をついて手をシッシッと気怠そうに振る。 それでも来るな、とは絶対に言わない要先輩はなんて優しいのだろう。嗚呼、放課後が楽しみ! #お遊戯みたいに title by みみ様 |