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幼なじみ同士の関係は、密接に見えて案外希薄だったりする。つまりは近く見えて遠い。
実際の話、何十年か前は結婚するだなんて騒いでた幼なじみとの仲は、今では用が無ければ話さない関係となっていた。


「隣のゆきちゃん、剣道で全国大会優勝だってねえ」
「…知ってるよ。学校でかなり言われてるから」

そう?なんて言う母からまたグチグチと皮肉やら何やらを言われる前に、私は朝食を片付けて家を出た。


ゆきちゃんこと、幸村とは幼なじみであり、ずっと一緒にいるような仲だった。
中一の時、幸村が部活に入った頃から私達の距離は急速に離れ、同じ高校になった今でも用が無ければ話もしない。


「Hey、如月。Good morning」
「おはよう伊達くん。全国おめでとう」
「Thanks。真田にも言ってやったか?」
「何で幸村?」

教室に入れば、隣の席の伊達くんに声をかけられそんな会話をすることになった。

「Ah、そんな怒るなって!」

とん、と伊達くんに額を突かれて私は自分がふて腐れているのに気づいた。妙な気分だ。

「夏ちゃーん、真田の旦那が話したいから昼休み屋上に来てくれだってよ」

通りすがった佐助くんにそう声をかけられ、私はますます妙な気分に陥った。


*
「夏殿…」
「何びっくりしてんの?」

昼休み。自分で呼び出したくせして幸村は目をまるくして驚いていた。
私だって呼び出されて動揺してるが、何とか表情を整えて幸村の横に腰を下ろした。

「で、話したいって何をなの?」
「…これは、剣道の試合に勝ったら夏殿と話すと決めていたのだ」

柄にもなく、どきっとした。幸村の真剣な瞳と真面目な顔。コンクリートに押し付けた私の手に重ねられた幸村の手。


「何故、某を避けるのか聞きとうござる」
「避けてない」

ぐう、と手を握られ私はまたどきどきする。整った顔が、近い。顔にかかる艶やかな吐息を意識せざるおえなかった。

「夏殿」

強く、耳元で幸村が呟いた。何の抑揚もない。ただ名前を呼ばれただけなのに。私のなかの積み上げた何かが簡単に崩れた気がした。
何年も固めていた意地も、崩れた。

「…やめて」
「…?」
「夏って昔みたいに呼んで。佐助くんと喋るみたいに、私とも喋って。変な距離置かないで。行かないで、どこにも行かないで」

中学の頃、周りにからかわれてから幸村は私を名字で呼ぶようになった。高校になって名前にもどっても、呼び捨てにしなくなった。
私と喋るときの一人称が俺でなくなった。喋るときに、少し目を反らすようになった。

「何もかも、なんか、寂しい」

目から水が流れては下に落ちる。私の涙腺の緩まるタイミングは自分でも分からない。

「…夏」
「っう、幸村、近い!」

身を乗り出す幸村が、後ずさる私との距離をさらに縮める。泣き顔なんて惨めなものは見られたくなかった。

「すまない。俺は、俺とて、夏と距離を取っていた」
「別に、責めたつもりじゃないの。距離をとってたのは私なの
。最初は、親に幸村と比べられるのが嫌で、距離、とって。周りから言われるのも、なんか、恥ずかしくて。てゆうか、幸村、剣道で全国行ったりして…どんどん離れてく気がしたから」

何とも自己中心的な理由だと自分でも思う。涙が絡まり嗚咽が止まらない。

それを黙って聞いていた幸村は、不意に学ランでぼろぼろこぼれる私の涙を拭った。
ふわりと温かい匂いは、昔と変わらない幸村の匂いだった。

「俺は、真田幸村だ。何があっても、それは変わらない」
「うん…っ」

幸村に抱きしめられるのなんて何年ぶりだろう。懐かしくてたまらない。

「夏、お館様は男にはやらねばならない時があると言っていた」


好きだ。その言葉は、男として腹を括ったわりには小さな声だった。思わず笑ってしまう。

「あは、は…!幸村おもしろ!」
「う、っ破廉恥でござる…!」

真っ赤なタコみたいな顔で慌てて私から離れる幸村という人間は、紛れも無い昔と同じ幸村だ。そんな思いに耽り、私はまた笑った。

(恋愛音痴チルドレン)


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な、何かすみませんでしたああ!
個人的には幼なじみならコレ!というすれ違いネタをやらせてもらいました。返品、修正いつでも受け付けます。
企画参加ありがとうございました!
h23/3/2



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