- ファミレスでの昼食を終え、2人はサンシャイン通りへと出た。 「おなかがいっぱいになったから、わたしはいざやくんにありがとうを言うです!」 「どういたしまして。じゃあ次は…」 満面の笑みで幸せそうに食事の礼をした鈴にそう軽く返事をしつつ、臨也は自分のプライベートの携帯を取り出した。もう昼が過ぎたのかと、待ち受けで時間を確認したほんの数秒。ほんの数秒の間に事件は起こった。 「鈴…?」 鈴は、すっかりその場から居なくなっていた。 * 「おお…これはわたしを”魅了“してるとしか思えないです。ねえいざや…」 某ゲームセンターのUFO キャッチャー前で、大きなうさぎのぬいぐるみに釘付けになっている少女。 人で溢れ返った店の中、半ば潰されながらも鈴はくるりと後ろを向いた。 「あり、いざやくん…?」 そして気づく。 臨也がいないことに。 「むむ…私はまさに“危機”かもです…」 数秒悩みながら辺りを見回し。 「ねえ、いざやくんをわたしに教えてほしいです! あ、ついでにこれも取ってくれたら私は喜ぶかもです!」 近くに立っていた男の服を掴んだ。 * 「なっ…狩沢さん大変っす!門田さんがロリ美少女を連れて帰ってきたっすよー!」 「…ドタチン…!」 「変な目で見るんじゃねえ!あとドタチン言うな!」 いつものバンの中。 本の中に埋もれるようにして話をしていた狩沢と遊馬崎。 渡草はアイドル、聖辺ルリファンとの会合で外出中だ。 門田は手を繋いでいた少女をバンの中に乗せてやる。 少女に取ってやった大きなぬいぐるみもきちんと抱えさせて。 「おー!私がさっき座ったふかふかとはまた違うです!」 「可愛いー!さては誘拐?拉致?!」 近くの自販機で購入したジュースを受けとってはしゃぐ鈴を見た狩沢と遊馬崎はさらにはしゃぐ、はしゃぐ。 「迷子らしい。ゲーセンに1人でいた。 鈴、臨也を探してるんだろ?」 「うんです!いざやくんです! お兄さんとお姉さん、の名前は?」 驚異的なスピードでカルピスの缶を空にした鈴は周りを見渡しながら尋ねた。 「右が遊馬崎ウォーカー、左が狩沢絵理華。さっきも言ったが俺は門田京平だ」 「ゆまっちでいいっすよー鈴ちゃん」 「てゆうか鈴ちゃん、イザイザの子なの?!」 「ゆまっちくん、えりかちゃん、きょうへいくん!わたしは鈴で、いざやくんに預かってもらってるです」 1人1人を目で追いながら、鈴は反芻させるように名前を言う。それから自信満々に臨也のことを話して笑った。 「預かり物…何だかおいしい匂いがするわ…」 「あ、狩沢さん。この間言ってたの、まだ車にあるんじゃないっすか?」 「ゆまっち…!名案!」 「おいお前ら…」 ちょーっとこっちおいで?と微笑んだ狩沢に連れられ、鈴は素直に車の奥へと進んだ。 門田の携帯の着信音が鳴り響いたのはその時だった。 「…はい、もしもし」 『ドタチン?』 「…臨也か」 『そ。いきなりだけど、そっちに黒いコートと白いワンピース着た、小学生くらいの女の子が行ってない?』 「鈴のことか?なら露四亜寿司の近くで俺らと一緒にいる」 『すぐに行く』 即座にそう返事され、通話は切断された。臨也とあの小さな少女の関係がいまいち理解できない、門田はそんなことを考えながらバンの方へ戻る。 「あ!ドタチン見て見て!可愛いでしょ!」 「ネコミミ幼女っす!」 バンの中では、コートを脱いだ鈴に猫の耳、尻尾、さらには首輪をつけさせている遊馬崎と狩沢がいた。 「何やってんだ…」 「にゃーにゃー、ねこさんです」 「おおっ!何だか梨花ちゃまを彷彿させる発言っす!」 「可愛いすぎて鼻血がっ!」 確かに、鈴に猫耳は似合うと門田も思った。鈴も嫌がっている様子は見られず、問題はない。が、しかしだ。 「お前ら…犯罪臭がするぞ」 「におい……きょうへいくんは犬ですか?」 「残念ながらドタチンは犬じゃないよ」 車の床に座り込んで、可愛らしい動作で首を傾げた少女の疑問に返答する第三者の爽やかな声。 声の主は鈴を迎えにきた臨也だったのだが、彼女の姿を見てかちりと固まった。 「…は」 「えりかちゃんと、ゆまっちくんが付けてくれたです」 「…あぁ、そう」 言うなり、臨也は鈴のコートと手を引っつかんですぐさま身を翻す。世話になったね、ドタチン。とひらひら手を振って返事も聞かずにそのまま歩きだした。 「ねえ、鈴ちゃん耳つけたままだけど」 「いいんすかねぇ」 The youth is perplexed (青年は当惑する) 11/3/27 |