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「おおおおっ!ふかふかです!」
「はいはい静かに」

タクシーに乗り込み嬉々と騒ぐ鈴をきちんと座らせ、臨也は自分の携帯をポケットから取り出した。時刻はまだ朝の9時だ。溜まっていた仕事は無し、今日の予定は運良くフリー。

ならば今日は久しぶりに池袋を満喫しようじゃないか、臨也はそう考え、柔らかい笑みをもらした。
−もちろん、あの化け物に会わなければ、だけどね。
途端に憂鬱になる臨也とは対照的に鈴は飽きることなく楽しそうに窓の外を見ていた。

*
「いけぶくろーーっ!!」

数十分で2人がタクシーから降りたのは駅前。
黒いファーコートに身を包んだ美青年と、同じく黒いファーコートを羽織った小さな少女。
奇妙な組み合わせの2人は、ゆっくりと歩きだし買い物を開始した。


「鈴、どれがいい?」

まず2人が足を止めたのは雑貨屋だった。
色とりどりのコップや歯ブラシ、食器類などが並ぶ前で、臨也は鈴に問い掛ける。興味津々といった様子でそれらを見ていた鈴はうう、と小さく鳴く。

「うさちゃんの歯ブラシ、可愛いのです!でもこっちも…!」
「焦らなくていいよ、時間はたくさんあるから」

鈴はプラスチックのコップを握りしめながら、嬉しそうに頷いた。


*
「いざやくん、わたしはわたしの身で“わがまま”だと思うですが、ご飯が食べたいです」

そういえば朝がまだだった事を思い出した臨也は、先程雑貨店で購入した荷物を片手に持ち、近くのファミレスに立ち寄るために再び鈴の手を引いた。

「どれにしようかな、ってわたしはご飯とにらめっこです!」

鈴は小さな手でメニューを辿り見ながら、オムライスの写真でふと動きを止める。

「お、むらいす…?」
「オムライスね。それがいいの?」
「すごく美味しい!とわたしは予測するです!」

何故かそう胸を張って自信満々に言い切った鈴はオムライスとパフェ、臨也は軽食とコーヒーを注文した。


「ううう!
ほっぺたがむずむずするくらい美味しいです!」
「それは良かった」

艶やかな黄色の卵に真っ赤なケチャップライス。さらにチョコレートや生クリーム。
オムライスとパフェを食べながら本当に嬉しそうな表情をする鈴を見ると、食べさせてやった甲斐があるというものだ。

「まあ、いざやくんの昨日のご飯には負けますですよ!」

臨也にとっては意外な言葉だった。鈴の口端についた生クリームを指でとっていた臨也は思わず固まる。
―案外、懐かれているのかもしれない。
この少女は“折原臨也”に侵食され、信用しきっている。

そう思考を巡らせた刹那、生クリームのついた親指に生温い感触を感じた。鈴がぱくりと臨也の指をくわえている。

「…」
「んう、美味しいのです」

続いて自分の口の横、指についたクリームを舐めていく。…猫みたいだ、と臨也は思った。

「…鈴、俺以外の前でパフェ食べるなよ」
「うう?分かったです」

―案外、侵食されているのは俺の方かもしれない。


The girl and the youth go out to the town
(少女と青年は街に出掛ける)

2011/3/12




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