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「じゃあみかどくん、今まで“彼女さん”は居なかったですかー」
「こいつは幼なじみと噂立てられただけで泣いちゃう位のシャイボーイだからな」
「ま、正臣!それ昔の話!」

鈴と来良学園に通う3人組は、池袋の某ファーストフード店で雑談を交わしていた。
雑談といっても、鈴にとっては臨也から頼まれた大切な仕事である。

「最後です!
みかどくんの、“好みのタイプ”は何ですか!」
「園原…杏里です」
「正臣!!もう黙ってて!」

ふんふん、分かっているのかいないのか。鈴は妙に煌めいた瞳で杏里の方を見る。

「あんりちゃん、かわいいです」
「えっ…」
「杏里は確かにエロ可愛いな」
「えろかわいい!」

みかどくんの“好きなタイプ”はえろかわいい。
慌てる帝人をよそに、鈴はしっかりと頭に刻み付けた。
それから隣に座っていた正臣にしがみつきながらじゃれつく。

「鈴ちゃん、本当可愛いですね」

杏里は穏やかな笑みを浮かべながら隣の帝人に囁くように言う。微かな胸のときめきを押さえながらも、帝人もこくこく頷いた。

「鈴はエロ可愛いじゃなくてロリ可愛いだな」
「ろりかわいいー!」

正臣にわしゃわしゃと髪を撫でられながらきゃっきゃっとはしゃぐ鈴を見ながら、帝人はゆっくり呟いた。

「あの…子誰かと似てるっていうか」
「あああ!しーくん!しーくんです!」
「しーくん?」

その時突然、ファミレスの窓から見えた人影に鈴が反応した。
外にはドレッドヘアの男と並んで歩く金髪にバーテン服の男。

「あんりちゃん、まさおみくん、みかどくん!
“クレープ”と“アイス”ありがとうでした!」

その2人の影を見失わないように目で追いながら鈴は3人に手を振った。

「またな、鈴!」
「また会いましょう…!」
「あ、またね…!」

重いドアを通行人に開けてもらいながら、鈴は全速力で走り出す。
勢いよく動いたせいで小さなピンのようなものが落ちたことなど、もちろん気づくはずもなかった。


*
「しーくん!しーくん!
待てー!です」

てってって、どん!
叫びながら走っていた身体は目標を前にしてとうとう転倒した。

「…お前、よく転ぶな」
「痛いです…」

ぐすん、と小さく鼻をすする小さな少女。小さな膝はコンクリートで擦りむいたせいで血がにじんでいる。

鈴を起こすとほんのり漂う大嫌いな奴の臭いに若干の苛立ちを感じつつ、静雄はワンピースについた埃を払ってやる。

「うう、しーくん…痛くて立てないですー」
「ったく、しょうがねえな」

しがみつきながら涙目を見せる鈴の物言いを無視はできず、静雄は首根っこを掴んで小さな身体掴みあげると片手で抱えた。

そんな静雄を珍しげに見ていた田中トムは静雄に疑問を問う。

「知り合いか?」
「ああ、はい。一応知り合いっす」

鈴は高くなった視界に感嘆の声をあげて、さらに視界に新しい人物を発見して首を傾げた。

「お兄さんはしーくんのお友達ですか?」
「上司のトムさんだ。きちんとさん付けしろよ」
「トムさんー!わたしは鈴です」
「おお、よろしくな」

鈴と自分の上司が挨拶を終えると、静雄を仕切直したようにトムを見る。

「すいませんトムさん、ちょっとこいつの手当てしてきて良いっすか」
「おー、行ってやれ。そこのマックに居るわ」
「ありがとうございます」


「しーくん、ありがとうでした」
「おう。今度から気をつけろよ」

コンビニで必要最低限の絆創膏、消毒液の2つを買った静雄は簡単に鈴の膝を手当てしてやった。

「あ、あとです。これもありがとうでした」

ごそごそとジャケットのポケットから差し出されたのは、ついこの間静雄が貸したハンカチだった。
実は臨也が道端に投げ捨てたが、こっそりと鈴が拾い上げ、波江に洗濯を頼んだのだ。

「…ああ、わざわざサンキュー。良い奴だな、お前」
「しーくんが、良い人ですー」

ほのぼのとした空気が2人を包む。
久しぶりに癒された気持ちになった静雄は、よしっと掛け声を1つ、鈴の髪をわしゃわしゃ撫でた。

「マックでシェイク奢ってやる」
「しぇいく?」
「飲んだことねえのか?
んー…アイスみたいなもんだ」
「アイス!!」
「うし、行くぞ」

きらきらと瞳を輝かせていた鈴は、不意に静雄のズボンを摘んだ。そして振り返る彼に、一言。

「抱っこしてくれると、わたしは超幸せです!」

(…断れねえ)

ここまでは良かった。
穏やかで、まるで花びらでも舞っていそうな空気は静雄の天敵によって打ち破られた。

「あの池袋の喧嘩人形が、いたいけな幼女を抱いて歩いてるなんて見物だね。はい、チーズ」

パシャリと響く携帯のカメラ音。
黒髪の美青年はニヤリと笑みをたたえながらナイフに手をかけた。

「鈴、君のことはカメラ持った奴に追わせてたんだよ。ついでに盗聴器も付けてたんだけど、走ったら取れちゃったみたいだね。
おかげでシズちゃんとの会話はさっぱり聞き逃したけど…。
まあ、とりあえずイライラするから鈴を離してくれるかなあ…シズちゃん?」

通行人はいつの間にか遠ざかり、鈴は妙に過疎した空間でコクリと息を飲んだ。


#The strongest and the girl meet again
(最強と少女は再び出会う)

2011/8/10




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