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純粋無垢な幼い子供には、不思議な力がある。
可愛らしさや素直さは大人達を癒すし、リラックスさせる。
が、時には困らせもする。

「あなたの名前、りゅーみねがみかどくんと見たです」
「…へ」

ここに、一人。
純粋無垢、清廉潔白な幼い少女に声をかけられ戸惑う男子高校生がいた。


*
「大体分かった?」
「はいです!」

つい2日前。
臨也と鈴は池袋の某ファミレスで昼食をとっていた。

「まず“新宿駅”から今日と同じ“電車”に乗って、“池袋駅”で降りるです。
それから“東口”の前にいる、これと同じお兄さんを見つけるです」

ハンバーグを食べ進めていた、フォークを握る手を置いた鈴は一枚の写真を取り出してたどたどしく話す。

「そう。今日来た通りにやればいい。帝人君に東口の前に来てもらうようにするのは、俺がやる。鈴は彼に質問を忘れないように」
「どぅまいべすと、ですー!わたしはやればできる子なのですよ」

信者の女の子からの頼まれ事、鈴のちょっとした自立促進を兼ねてこの計画は遂行されることになった。

「くれぐれも帝人君に、俺と関わりがあることを言わないようにね」
「はいなのですよー!」


*

「新宿駅まで。金はこれ、先に払っとくから」
「分かりました」

そしてつい数時間前。
自宅マンション前にタクシーを呼んだ臨也は、運転手に金を渡しながら鈴を車に乗せた。

白いワンピースに臨也の短いジャケットを羽織った鈴は、首にICカード式電子マネー、某ペンギン柄のカードを下げてにこにこと微笑む。

「じゃあ気をつけて」
「ばいばい、いざやくん!」

2人の会話を見切ると、運転手は颯爽と車を発進させた。
臨也はそれを見送りながら自分の趣味用携帯でダラーズの掲示板を開く。


『ダラーズ創始者へ宣戦布告をするスレ』

*月*日16時45分
池袋東口前にて貴殿を待つ
私が新たなダラーズのリーダーだ


その書き込みには好奇心からの悪戯のようなレスが大量にされているため、掲示板の上部にあがっていた。

「帝人君は絶対に来る」

自分が創始者だと名乗らないとしても、見に来るだろうという確信が臨也にはあった。

鈴に取り付けたGPSの反応を携帯で見ながら、臨也は笑みを浮かべつつマンションへ戻るのであった。


*
「こんにちはです、初めましてです!わたしはあなたをりゅーみねがみかどくんと見たですよ!」

いきなり幼い少女に名指しで声をかけられ、そりゃあもう帝人は驚いた。驚いて固まったくらいだ。

「みかどくん?」
「え?あ、りゅーみねがじゃなくて、竜ヶ峰、だよ」

我ながらかなり動揺したと、帝人は客観的に思う。割とどうでもいい間違いの指摘をしてしまった。

「りゅーがみねみかどくん!
わたし、あなたとお話をしにきたです」
「え?」


あうーっと白く細い両腕を目一杯万歳させた鈴は、質問をぶつけようと目線をかっちり合わせる。
困惑する帝人は視線をさ迷わせながら、どうしたものか、いやどうにもできないと携帯を開いたのだった。


The girl work
(少女は働く)

2011/6/24




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