- 「学校に行きたい?」 「はいです。 わたしの身で至極恐悦“申し訳”ないですが、いざやくんと“学校”に行きたいです」 …突然何を言い出すかと思えば。 妙にかしこまった正座と態度で、難しい言葉を使いながら鈴は深々と頭を下げる。 少し離れた方で作業していた波江が、一瞬だけ視線をそちらに向けてすぐに戻した。 「…小学校とか?」 仕事用の回転式イスで、長く細い脚を柔らかく組んだ臨也は、同じく仕事用のメガネをかけ直しながらそう一言。 「ノー!わたしは“高校生”になりたいです!」 「却下。無理。駄目」 「あうっ!?何でですか!」 「物理的に?てゆうか常識的に」 「いざやくんー!」 鈴はめげずに臨也の膝の上まで上り詰めるが、臨也とて流石に学校に行かせるのは無理だ。 裏口入学なら出来ないこともないし、見た目もぎりぎり…かなりぎりぎり大丈夫だが、こんな無知な状態で高校に行かせるのはやはり。 「無理。良くて中学だね」 「中学…?いざやくんはどこですか?」 「俺は24だから。 学校には行けない」 「あうー…ならわたしも行かないですー。いざやくんー、わたしと遊ぶですー」 「だから今仕事中で…」 ピンポーン。 平日の夕暮れ時。 珍しい時間帯の来客に、臨也は波江に対応するように言葉を投げた。 * 「久しぶりだね」 「は、はい…。すみません、突然。これ、良かったら」 尋ねて来たのは、学校帰りの女子高生。大人しそうな少女は臨也の信者である。 少女が差し出した有名なケーキ店の箱は、すぐに鈴の手に渡った。 「ありがとう。ああ、そっちに座って。波江、コーヒー。鈴はそれ食べていいよ」 「わーいです!何かな何かな!」 波江は至極面倒臭そうに2つのコーヒーと、プラスチックのうさぎのカップに入ったココアを3人のもとに運ぶ。 「で、何かあったの?」 長いローテーブルを挟み、臨也と少女が向かい合って座っている。臨也の横では、波江にケーキを出してもらっている鈴が座っていた。 「実は、好きな人ができて、それで…情報が欲しいんです」 来良学園の短めのスカートをきゅっと握りながら、不安げに少女は打ち明けた。 「へえ…君が、ね。名前は?」 ケーキを頬張る鈴の横に置かれていたノートパソコンに、臨也は1つのデータCDを挿入しながら楽しそうに尋ねる。 「竜ヶ峰帝人君、です。 臨也さんと竜ヶ峰君は知り合いなんですよね?以前校門の前で話してるのを見ました」 ウイン、ハードディスクが動く音が激しく響き、鈴のううっとゆう歓喜の呻きにとけた。 「まあね。それで、彼のどんな情報が欲しいのかな」 読み込まれた情報がデスクトップにつらつらと羅列される。それは来良学園の生徒名一覧だったが、竜ヶ峰帝人という名前を聞き、別のデータを展開した。 「好きなタイプとか、昔付き合ってた人とか…」 ぴたりと、パソコンを操作する手が止まる。 情報屋といえど、そのような深い私情に関わることには答えに限界がある。 「…難しい注文だねえ」 「…やっぱり、そうですか」 (そもそも帝人君には園原杏里ちゃんがいるし…) 「鈴」 「いざやくん?何ですか?」 「高校生にはなれないけど、高校生と…話す気はある?」 臨也の質問に、鈴は小首を傾げた後に任せろです!と笑った。 The youth and the girl receive work (青年と少女は仕事を受ける) 2011/5/29 |