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「ん…」

折原臨也は久しぶりに、目覚ましをかけずに目を覚ました。貴重な、ゆっくりとした朝だ。
いつもより軽い瞼を擦って、手繰りよせたプライベート用の携帯を開く。
待ち受けに表示された日付は5月4日。そしてメールが4件。

2件はクルリとマイルからだ。
誕生日おめでとう、イザ兄!
大体そんな内容。

「誕生日…」

―今日、俺の誕生日か。
―1件は九十九屋。何で誕生日知ってるんだよ。
さて、最後の1件はと未読メールを開く。

“短常備おめでとう”

「…」

知らないアドレスからの、不器用なメール。誕生日おめでとうと書きたかったのだろう。
自分のアドレスは絶対に特定な人以外には教えない。ましてやプライベートのものは。

「いざやくーんっ!」
「うっ」

真剣に思考を張り巡らせていた時の襲撃。いつものようにジャンプして飛び、俺の腹へ全身で着地した鈴。

「“めーる”見たですか?!私、頑張ったです!おめでとうです!」
「…このメール、鈴?」
「はいです!!」

鈴は臨也のシャツに鼻を埋め、子猫が甘えるようにじゃれついた。きらきらと期待の視線は、臨也に感想を求めているようだ。

「ありが、とう」
「いざやくん、嬉しいですか!?」
「…ああ」

臨也に言われた鈴はみるみるうちに笑顔を咲かせ、あうあうと言葉にならないように唸りながらジタジタ暴れた。少女なりの嬉しさの表現だろう。

「鈴、何で俺の誕生日知ってるの?」
「九十九屋のおじさんに聞いたです。めーるのやり方も、教えてくれたですよ」

鈴に引っ張られベッドから降りた臨也。ベッドの横のサイドテーブルには鈴のパソコンが置かれている。現在時刻は9時。慣れない作業を朝からやってくれたのだろうと、臨也は考える。


「鈴。誰かのために何かをしたい、って欲求はさ。すごく人間性があると思わない?」
「…にんげんせい?よっきゅう?」

単語の意味が理解できないのか、首を傾げた鈴はパソコンのもとへ、とてとてと走る。意味を調べるつもりだろう。

「好きだよ、鈴。そういう“俺を喜ばせたい”っていう感情とか、すごく人間くさいじゃないか」
「いざやくんが何を言ってるか、わたしの“鼓膜”は分からないみたいです」
「鼓膜じゃなくて頭。考えるのは脳。
それより着替えて」
「はーい!」

誕生日メールが成功したせいか、鈴はかなり上機嫌だった。
まあ、こんな誕生日もありだろうと臨也も珍しく素直に口元を釣り上げたのだった。


Happy Birthday
(幸せな誕生日)

2011/5/4




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