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走りながら器用に静雄をまいた臨也は、ぽんと鈴の体を地面に降ろす。

「で、その手はどうしたの」

臨也は片手で鈴に付けられた尻尾を取りながら問い掛けた。

「あう。こんくりーとと戦ったです」
「は?意味わかんないよ」

鈴の手にはハンカチが巻かれている。これは数分前に静雄が手当てとして施したものだ。

ハンカチを解いて手を見た臨也は無意識に傷口に触れる。ぐ、っと爪を立てれば再び血がにじみ、鈴がきゃうっと鳴いた。

「何するですかいざやくん!わたしは悲しいです!」
「ねえ、このハンカチってシズちゃんの?」
「はいです」
「へえ」

言いながら、臨也はハンカチを地面に投げ捨てる。ああっと鈴が声を上げたが、全く気にする様子はない。

「手、一応診てもらうから。おいで」
「“お医者さん”は嫌です」
「注射するわけじゃないし、大丈夫だよ」

臨也は急かすように鈴の怪我をしていない方の手を握って歩きはじめる。
鈴は先程臨也が地面に投げ捨てた静雄のハンカチをそっとジャケットのポケットに入れ、されるがまま着いていった。


*
「お帰りセルティ!」
「やあ新羅」

臨也が尋ねたのは、某マンションの一室だった。
チャイムを押すなり確認もせずにドアを開けた部屋の主は、臨也を見るなり残念そうにため息。

「何だ…臨也か…」
「運び屋は仕事?」
「多分ね。
何だい、また静雄と喧嘩?」

白衣の男、岸谷新羅は臨也を室内に招き入れようとして不意に手を止める。

「…臨也、その子は?」
「ああ、そう。この子の手当て頼むよ」

とりあえず、と2人は部屋に入れてもらう。臨也がソファーに腰掛けると、鈴は寝そべるように臨也の膝の上に飛び乗った。

「どーん!」

それを特に叱らず。
むしろ髪を撫でている臨也を見て新羅は頬を引き攣らせるしかなかった。

「…驚天動地だよ。まさか臨也にそんな趣味があるなんて」
「悪いけど勘違いだよ。これはただの預かり物。
ほら、鈴。新羅に手出して」

臨也の指示に素直に従うように、鈴はてくてくと新羅の前に歩いていく。

「わたしはしんらくんに手を出すです!」
「えっと、鈴ちゃんだよね?手、触るよ」

擦り傷だらけの手の平に消毒をして、ガーゼと包帯をきちんと付けた新羅は鈴に微笑みかける。

「はい、いいよ」
「ありがとうです!ぐるぐるです!」

くるくるー!と回りながら再び臨也にぴったりくっついて座った鈴。

「傷は大したことないよ。擦り傷程度」
「それはよかったね、鈴」
「で、お茶飲んでく?それともすぐ帰る?」
「…じゃ、今日は帰らせてもらうよ。治療費はここに置いておくから」
「ばいばい、しんらくん!」

時計の針は15時を差していた。
まだ買っていないものもある。

「鈴、他の買い物は新宿で済ませるよ。またシズちゃんに会ったら厄介極まりないからね」
「しーくんに会いたくないですか?」
「名前を出すのも嫌な位嫌いだよ」

手を繋いで、そんな会話をしながらマンションを出る2人を見送りながら、新羅は今日のことをセルティに話そうと決めた。

(しーくんってまさか静雄のこと…)


The girl and the youth come home
(青年と少女は帰宅する)

2011/4/30




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