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ブランド物の靴をせわしく鳴らし、折原臨也は早足に池袋を歩いていた。片手には仕事用の携帯。少しの苛立ちと、珍しく焦りを感じながら、彼は無言で歩を進めた。


*
「ところで!あなたの名前は?」

アイスココアの空き缶を覗きながら、鈴が静雄に問う。

「平和島静雄だ」
「へいわじま…しずおくん…長いです」

自分の脳の許容量を越えるとでも言うかのように鈴は困惑したような表情を浮かべた。

「みんな呼んでるし、静雄でいい。ただし年上には、敬語とさんを付けろよ」
「しずおくん、しずくん……しーくん!
私は鈴です。九十九屋鈴。よろしくです!」

しーくん、という慣れない呼ばれ方に若干照れのような何かを感じつつも、静雄は気まずそうに頷いた。

「あー…鈴」
「はいです」
「何でお前、耳なんかつけて1人でいたんだ?それに薄着すぎねえか?」

今までの疑問をすべて投げ掛けるように、静雄は一気にまくし立てた。

「…いざやくん」

ぽつり、と吐き出すように鈴は目を見開いて呟く。小さな声が聞き取れなかったのか、聞き返そうと静雄が口を開いたその時。

「こんなところにいたんだ、鈴」
「あう」

爽やかな声。
その声の主は、期待を裏切らぬ整った容姿の青年。折原臨也である。
臨也は自分の着ているデザインと同じ黒のジャケットを鈴に被せて担ぎあげた。

「怒って悪かったよ」

臨也の謝罪は飄々と軽々しい物だったが、謝られて満足したのか鈴は笑顔で臨也の首元に顔を埋めた。


―しかし。

「いぃ…ざぁ…やぁー…!」
「あーあ。せっかくの感動の再会なのに。空気くらい読んでよ」
「うるせぇ黙れ!殺してやるから今すぐ鈴を離して口閉じて立ってろ!」
「おや?鈴?シズちゃん、いくら彼女ができないからってさー。いたいけな少女に手を出すなんて!…ロリコン、気持ち悪いよ!」
「ぜってえ殺す!」

気づけば辺りからは通行人が遠ざかっていた。池袋に住む、または頻繁に来る人なら通常の、懸命な判断である。

「あう。しーくん、どうして怒ってるです?」
「しーくん?あはは!だってさ、しーくん!」
「ノミ蟲は黙ってろ!
鈴、そいつから離れろ今すぐにだ!」
「でもわたし、“無理”です。しーくん!」

鈴の言葉を聞きながら、メキメキと道路の交通標識を何気なく引っこ抜く静雄。それはあまりにも信じられないような、現実離れした光景だ。

「ま、そういうことだから!じゃあね、シズちゃん!」
「……このノミ蟲があああっ!
鈴、避けろおぉおおおお!」
「あううううううう!」

風を切って、目一杯振りかぶり投げられた標識は臨也に抱えられている鈴の猫耳カチューシャを引っかけ、外壁に刺さった。

「い、いざやくん!これが“興奮”です!だいなみっくー!」
「これだから化け物は!」

黒のコートに肩には少女。
臨也は静雄がまた何かを持ち上げる前に駆け出す。
鈴は相変わらず怒鳴っている静雄に手を振りながら、興奮したように目を輝かせて笑っていた。


Reconciliation and war time
(スーパー和解戦争タイム)

2011/4/23




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