- 金髪、バーテン服、サングラス。 赤い瞳、ワンピース、猫耳。 電波少女、鈴は池袋最強の男、平和島静雄に差し出された手を握って立ち上がった。 「ありがとうです。わたしは優しい人、好き、です」 「あー…お前変な奴だな。んだこりゃ」 不思議な少女の猫耳を見ながら首を傾げる静雄。そして白いワンピースの汚れを小さな手ではたきながら鈴は笑う。 「ねこさんですよ、にゃー!」 「そりゃあ見りゃあ分かるけどよ」 ふと、静雄の目を引いたのは鈴の瞳だった。きらきらとした大きな瞳は、健康的な赤みがかかっていた。 静雄は何かを思い出すように、じいっとその瞳を見つめる。視線に気づいた鈴は自分の目を手で指差して笑顔を見せた。 「あう。“病気”じゃないんですよ!わたしは赤い目です。いざやくんと同じです」 腰を屈めて鈴と目線を近づけていた静雄の額に、突然血管が浮かぶ。もちろん“いざやくん”の言葉が全ての原因である。 「臨也…だぁ?」 ビキビキ。間接が不協和音を奏で浮き上がる血管は増えるばかり。 それが“怒り”を表しているとは分からない鈴は、笑顔で肯定の意をしめそうと頷いた。 「はいです。でもです!今わたし、いざやくんにはちょっとばかし怒ってるです」 頬を膨らませて静雄を見上げる小さな姿は、一般的に見ると大層可愛らしい物だったが。それで静雄の、臨也への怒りが収まるわけがない。 「…こうしてみりゃ何かノミ蟲臭えじゃねえか…!」 「あうう!」 静雄がサングラスを外し、手で近くの外壁を叩けばそれは脆く、大きな音をたて崩れた。 その音と飛んだ破片に驚き、鈴が小さく呻く。 「“こんくりーと”がこんなに…!」 そして自分の横の外壁を目にすると、破片を眺めながら興奮したようにぴょんぴょんと跳ねはじめた。一応、自分の中で“常識”というものに分類されていた事を、静雄は簡単にやってのけた。 「わあわあ!私もやるです!えいっ」 「…馬鹿かお前。お前がやっても壊れる訳ねぇだろ」 極めて無駄に。 小さな手で諦めずにコンクリートを叩く鈴の手。壊れないのが不思議らしい。 「がんばればできるかもです」 「無理に決まってんだろ。ほら、手ぇ血が出てんじゃねえか」 すっかり怒気を抜かれた静雄が、コンクリートで擦れてしまった鈴の手を少しだけ迷って…掴んだ。 「さすがに舐めるとかはねぇよな…絆創膏か」 「舐めるといいです、か?」 「あ、おい汚ねぇからやめろ!とりあえずそこの公園で洗うぞ」 結局鈴の手をひき、しっかり手当てまでしてしまった静雄。 今だに互いの名前を知らない2人は出会って10分程。 ベンチで、買ってやったココアを嬉しそうに飲む少女を見ながら静雄はタバコをふかした。 The strongest is perplexed (最強は当惑する) 2011/4/15 |