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「いざやくん」

折原臨也は動揺し、当惑していた。

「いざやくんー」

(猫耳?幼女?
別にロリコンやショタコンとやらの類に偏見を持っているわけじゃないし、そんな性癖をもつ人間にも興味がないことはないし)

そしてすたすたと速く、いつもよりやや歩幅を広く。臨也は長めの脚でそう歩いていた。
当然、自然の摂理で臨也より何十センチも小さな鈴は追いつけなくなる。

「いざやくん!」
「っ!」

半ば引きずられていた鈴は高い声で怒鳴って、自分の手を掴んでいた臨也の手に噛み付いた。

「…鈴」
「い、いざやくんが止まってくれなかったです。怒る、ことをしても、“むだ”です」

咎めるような臨也の視線と声に、汗をかきながら、臨也と同じ赤い瞳を軽くつりあげる鈴の頭には……猫耳。

「鈴、それ外して」
「…ねこさんですか?」
「そう」

猫の耳、尻尾、首輪。
それらを付けた鈴の姿にしばし動揺していた臨也も、ようやく直視できるようになり外すよう指示した。

「な、なんかいざやくん、怒ってるです」
「別に怒ってない。だから早く外してくれ」

既に、そんな非常識な格好をした少女のせいで周りから視線が集まっている。臨也としては目立つのは好ましくないのだ。

「……いや」
「は?」
「やです。わたしは、ぴりぴりしたいざやくんの言うことは聞きたくないです」

べーっと子供らしく舌を出して、鈴は臨也の手を振り払う。それからパタパタと人混みのなかに走り出した。


…唖然。
素敵で無敵な情報屋は唖然とした。

何故自分はあんな小さな少女に振り回され、そして油断し、挙げ句の果てに猫耳をつけた姿に動揺していたのか。

「…チッ」

舌打ちを一つ、臨也は仕事用の携帯を片手に歩きだした。


*
(…なんだか、わたしは悪いことをしてる…です?)

てくてく、浮世離れした猫耳少女が池袋を徘徊する。
歩く度に揺れる尻尾、首元で鳴る鈴、気温に見合わない薄着の白いワンピース。知らぬうちに周りから好奇の目で見られている、当人は気づいていない。


「…いざやくんが悪いでうにゃっ!」
「あぁ?」

でうにゃっ、と奇妙な鳴き声をあげた鈴は、路地の曲がり角で黒い物体と勢いよくぶつかった。

「ふ…」

そしてバランスを崩したせいかはじき飛ばされたように尻餅をつく。
軽い体は地面にぽすっとぶつかって、鈴は痛みから赤みがかった瞳に涙を浮かべた。

「…おい」
「わたしは、痛いです」
「…悪かったな」

金髪、バーテン服、サングラス。
池袋最強の男は少女に手を差し延べたのだった。


The strongest and the girl meet
(最強と少女は出会う)

2011/4/3




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