「何だその眼は!完全にナメてんだろおめえら!殺しちゃる!」

こけしが荒々と叫ぶ。そう今怒られている原因は天谷くんがこのこけしを挑発したから。怒らせちゃってどうするつもりなんだろう、こけしの口から回転速度MAXじゃあなんて聞こえたしもう無理かもしれない。

「うめちゃん早くなるけどイケる」
「無理です」

だよねと短く答えたかと思ったらぐいっとわたしの手を引く。体が宙に浮いたかと思えばわたしの体は天谷くんの腕のなかに、所謂お姫様抱っこという形に。

「天谷くんっ」
「舌噛むよ、ちょっと黙っててね」

そう言った瞬間に早くなる縄。それでも天谷くんはなんともないというように涼しい顔で飛んでいた。人一人担いでいるのに。人間離れしすぎている。わたしは天谷くんの首に腕を回してしっかりと抱きつく。不謹慎かもしれないけどこんな状況なのに胸がどきどきしてる、そんな自分に呆れちゃう。

「あかん…ワシの腕…ちぎれてまっ」
こけしがそう呟いたかと思うとぶちりとこけしの腕がもげてしまった。どうやら片方のスピードについていけなかったみたい。回っていた大縄が地面に落ちた。動きが止まったのだ。わたしも天谷くんに降ろしてもらい床に足をつける。生きてるんだ。

ぱっと後ろを見るといるはずの天谷くんが消えていた。すると聞こえてくるこけしの悲鳴。その方向を向くと天谷くんがこけしを足で踏み潰していた。粉々になるこけし。もう地獄絵図って言葉がぴったり。

「ねえ惚れ直した?」
「っ、」
くるりとこちらを振り向いた天谷くんはそう言った。不覚にもわたしを抱えて飛ぶ天谷くんの横顔にはどきどきしかしなかった。つり橋効果ってやつなのか。高鳴る胸を押さえながらしばらく天谷くんと見つめ合っていると遠くで高畑くんの声が聞こえた。

「うめちゃん、天谷っ」
「あ、高畑くん」
「うめちゃんよくここまでこれたね」
「天谷くんに助けてもらった、の」

えへへと苦笑いしながらそう言うとそこにいた全員が信じられないという眼差しを天谷くんに送った。しんとしたこの場の沈黙を破ったのは高畑くん。ひとつ咳払いをして私たちにこう提案した。