何十分走ったんだろう。運動は得意だけどもさすがにだんだん息があがってきた。だってあの猫早いんだもの。ちょっと疲れたかもなんて考えていたら、あろうことかわたしの隣にねずみ着を着用した男の子が並んだ。

「あっ、脱げって叫んでた」
「おれ高畑瞬…っ」
「椎名うめです、ってなんで高畑くんねずみ着きてるの」
「秋元が危なかったから」

俺が囮になろうかと、なんてもごもご言う高畑くん。ああこの人もわたしと同じなんだ。それとあの女の子秋元さんっていうんだ。

「あのさ、うめちゃん」
「…っなに」
「秋元守ってくれてありがとう」
「えっ」
「あとは俺がなんとかする」

そういうと高畑くんはぐるりと反対を向いて猫に突っ込んでいった。なにをしようとしているのか全くわからないわたし。それにいきなり今になって追いかけられていた恐怖だとか疲労が沸いてきてその場にへなへなと座り込んでしまう。そんなわたしの隣にどこから現れたのか天谷くんがしゃがみこんだ。

「お疲れ様」
「天谷くん、」
「すげえようめチャン」
「…っ全然だよ」
「がんばったがんばった」
意識が朦朧としてきて視界が揺れる。そんな中、はいご褒美なんて天谷くんの楽しげな声と一緒に近づいてくる天谷くんの顔。天谷くんの瞳に映る自分と一瞬目が合った次の瞬間、唇が重なる。ちゅ、と軽いリップ音をたてながら口唇が離れていったのと同時にわたしの視界は真っ暗になった。