わたしの予感は的中したみたい。猫の置物は前触れもなく動き出し大きな手を振りかざしぶちぶちと生徒を潰していったのだ。どしんという地鳴りと生徒の悲鳴に混じって天谷くんの「楽しいなおい」という声も頭の中で響いた。



あれから何人が死んだのだろうか。

だるまの時と同じでわたしはがたがた震えて動けないでいた。横では大爆笑している天谷くん。そんな中悲鳴と地鳴りばかりの体育館に男の子の叫び声が響いた。

「みんな聞け!ネコはネズミを狙って来るぞ!」
その男の子の言葉を聞きねずみ着をみんな脱ぎだす。そしてわたしも握り締めていたねずみ着を力いっぱい投げた。これで大丈夫。


でも甘かった、一瞬猫の動きは止まったけれどまた腕を振り降ろし女の子をつぶしては違う生徒に向かって動き出す。それ光景を見てわたしはまた硬直した。また見ているだけなんだ。だるまの時と同じで、戦おうとしない。わたしは弱い。


震える腕に爪を立てながらそれでもじっと目の前の光景を見ていると一人の女生徒が鈴に近づき手を伸ばした。なんて勇敢な子だろう、心のそこからそう思った。でも猫がその子目掛けて突進していく。

「だめ、」
勢いよく立ち先ほど自分で捨てたねずみ着を拾う。あんなにダサいと思ってたのに、恥ずかしくて持っていたくもなかったのに急いで着替えると声をあげた。

「猫さんこちら!」
その時わたしはなんで体が動いたんだろう。くるりとこちらに方向転換する猫をみて小さく悲鳴を漏らした。こわい。ずずずと地鳴りと共にこっちにくる猫と腰が抜けたのかへたり込んでいる女の子をみてすこし笑ってしまう。わたし守れたんだ。

「天谷くん、わたしわかった。誰かを守ることがわたしの生きてる感」
「面白くねえの」
「あと、天谷くんも守りたいからわたしここ離れるね」

一瞬驚いたような表情を浮かべたがすぐにまた天谷くんは笑い出した。なんでそこで笑われるのかわからない。なんてしてる間に猫も近づいてきたみたいだから、天谷くんも逃げてねとそう言い残してわたしは走った。でもちゃんと猫はわたしについてきてるみたい。