体育館に行くなりクラスと名前を聞かれおずおずと自分の名前を言うといそいそと全身タイツみたいなものを渡された。広げてみると頭にはねずみの耳みたいのがついていて胸に椎名と書いてある。これをはやく着ろと怒鳴るこの人みたことある。あ、そうだ生徒会長さんだ。

ぐるりと体育館を見渡すと15人前後の生徒。でもねずみ着を着用してない子もちらほらいる。うん、全員穿くまで着ないでおこう、これすごく恥ずかしいし。

生徒会長と男の子がネズミ着を着るか着まいか言い争いをしている。その横をそろりと通り体育館の隅に移動した。

「あ、」
うっかり短く声を漏らしてしまった。だって先客がいたんだもの。しかもこの人もみたことがある。同じ学年の、悪いうわさばかりしか聞かない、そうだそうだ天谷くんだ。

その天谷くんとばっちり目があってしまった。しかも蛇に睨まれた蛙のように動けない。目が反らせない。どうしようなんて悶々と考えていると天谷くんが口をあけた。

「あんた名前は」
「っ、椎名うめ」
「じゃあうめちゃんとりあえず座れよ」
自分の横をばんばんと叩く天谷くん。わたしがここに居てもいいみたい。断ったら断ったで怒られるのも嫌だからおとなしく隣に座ることにした。微妙な距離をとってだけど。

「お前は何のために生きてる?」
「えっ」
唐突に口を開く天谷くん。楽しそうに聞いてくる天谷くんと質問の内容がよくわからない。わたしが答えに戸惑っているとクツクツと笑いながら続けた。

「俺の場合何かを壊してる時」
「壊してる、時」
「うんそれが俺の生きてる感」
やっぱりよくわからない。ますます困惑するわたしを横にずらずらと難しいことを並べる天谷くん。生が肯定された、とかなんとか。天谷くんが楽しそうに話してる途中突然床が揺れた。同時にどこからともなく巨大な猫の置物が現れた。


「おほっ楽しいことが始まりそうだな」
横を見れば口角をあげながら体育座りで前へ後ろへとゆらゆら揺れている天谷くん。楽しいってなんだ、わたしには嫌な予感しかしないよ。