「なあ」
「なんですか?」
「今日調理実習あっただろ」
「ありましたけど」
「カップケーキつくったんだろ」
「作りましたよ」


倉間先輩はなんで知っているんだろう。なんて言葉は飲み込んでおいて調理実習がどうかしました、と尋ねる。目の前の倉間先輩は何も言わずわたしに手のひらを近づけてきた。


「つくったんだろ」
「えっと、」
「………」
「つまり、くれ…と」


こくりと頷く倉間先輩。わたしの記憶が正しかったら、倉間先輩とはあまり面識がないというか、話したことがないというか。つまり調理実習で作ったカップケーキをあげる仲ではないはずなんですが。


「あ、あのですね、カップケーキは、神童先輩と霧野先輩に」


渡しちゃいました。その言葉を言おうとした前に倉間先輩がとても不機嫌そうな表情を浮かべた。なんていうか視線が痛い。しまいには小さく舌打ちも聞こえたような気もするし。とにかくこの状況をどうにかしたくておずおずと鞄の中から小さな袋をとりだした。


「えと、ちょっと失敗したものでもいいのならありますが」


取り出したのは自分のおやつ用にと袋につめた格好のわるい失敗作。ちなみに綺麗な自信作のほうは神童先輩達に渡した。これには倉間先輩も怒って諦めるだろう。そう思いながら俯いて自分のつくった不恰好なカップケーキとにらめっこしていたら「食べさせろ」と聞こえた。そんなにお腹空いてるのかな。そう思いながらカップケーキをひとつとって倉間先輩の目の前にだす。


「はい、どうぞ」
「………」
「倉間、先輩?」
「お前が食べさせろよ」


少し横をむいて照れくさそうにいう倉間先輩。照れるならそんなこと言わなきゃいいじゃないですか。けれど先輩につられてわたしも顔が熱くなってきたからどうしようもない。わたしは持っているカップケーキを潰してしまうんじゃないかってくらいの力を振り絞って口を開いた。


「先輩、あーん」


目を瞑り口をあけた無防備状態な倉間先輩。先輩の口にゆっくりカップケーキを運ぶ。わたしの心臓の動きはどんどん速くなって今にとまってしまう気がした。じっと倉間先輩の顔を眺めていたら唐突にぱちりと目を開いた先輩。視線がぶつかって胸のあたりがきゅんとしたのは気のせいだろう。


このあと倉間先輩がまずい、なんて憎たらしいことを言いながら袋の中のカップケーキを全部食べてくれたのは別のお話。


嘘は多めなほうがいい


111208
食べて仕舞おうさまに提出!