「この大会が終わったら、僕とキャプテンははまた会えなくなるね」
夜、いきなり俺の部屋に押しかけてきた吹雪は窓の外を見ながらそう言った。付き合って知った事だが吹雪は外見そのままのロマンチストだ。恋愛映画が好きで、たまに女の子から少女マンガを借りて読むらしい。別に人の趣味にどうこういうわけではないが、吹雪は冷めている様なところがあったから少し意外だった。
「そうだな」
もう会えないかもしれないな、という言葉を付け加えると、吹雪は悲しそうに笑った。俺は本当は吹雪にそのように反応して欲しくなかった。いつもの様に浪漫を嬉々として語りながら「僕らは運命の赤い糸で繋がっているから大丈夫さ」と気障っぽく言って欲しかったのだ。
「そうしたら僕らはどんな風な人生を送るんだろうね」
吹雪が小さく呟く。部屋の電灯が白くチカチカ光って、とても眩しい。
「誰かと結婚して、子供が産まれて、色んなことをして、死んでいくんじゃないのか。」
顔を上げて吹雪を見る。吹雪の白い顔はいつもより赤みを帯びていて、目はうるりと水に濡れている様に見えた。
「そうかあ」
吹雪が窓を開ける。外から風が入ってきて、俺の髪を揺らした。吹雪のTシャツが風にはたはたと靡く。
「僕はきっと結婚しないだろうなあ」
吹雪は俺に何か言って欲しいのだと思った。でも、何を言えばいいのか俺にはさっぱり分からない。どうしようもなくて、口をぎゅっと閉じた。
「きっとキャプテン以上に好きな人なんて出来ないから。」
なんてねっ、とからからと笑う声を聞きながら、自分にも聞こえるか聞こえないかくらい小さい声で、俺も、と呟いた。笑い声が止まって部屋が静寂に包まれる。吹雪の顔を見ると、耳まで真っ赤になっていた。
「…っああー!!」
吹雪が恥ずかしそうに髪をぐしゃぐしゃ掻き回した後、窓に手をかけ、外に向かって「キャプテン、大っ好きー!」と唐突に叫んだ。今まで聞いた吹雪の声の中で一番大きな声だった。
「な、おま、何してんだ」
慌てて窓を閉じると、吹雪はへらへら笑って俺を抱きしめた。
「キャプテンが好きなだけ!」
そう吹雪が言った途端に、隣の部屋から「うるせー!」と不動が言って壁を蹴った。