※大人円堂さんと子供熱波

夜中におひさま園から抜け出し、誰もいない河川敷でボールを蹴るのはもう習慣になっていた。ぽんぽんと弾み、自分の思い通りに動くボールが自分は好きだった。しかし季節は夏で、少しでも動けば汗が背中を伝う。タンクトップで練習しているが、蚊にさされるし夏の練習は考え物だと思った。ちらり、と後ろを見るが誰もいない。たまに自分がいないと気が付いた瞳子姉さんが怒りながら迎えに来ることがあるが、今日は大丈夫らしい。ボールは真っすぐ蹴り上がって、また自分の方に戻ってきた。
「君、サッカー好きなんだ」
不意に後ろから声が聞こえ、どきりとした。男の声だが少し高めだ。振り向くと、オレンジのバンダナをしたジャージの小柄な男が、にこにこ笑ってこちらを見ていた。丸い目には愛嬌があり、何だか不思議な魅力がある。
「そうだけど…あんた誰だ?」
警戒しつつ、サッカーボールを腕に抱えて言うと、男はふっと笑った。
「俺、おひさま園の近くに住んでるんだ。君はおひさま園の子だろ?いつも赤い髪の男の子達と騒いでる。あ、円堂守っていうんだ。よろしくな!」
男は歯を見せてにっかり笑った。悪意のない笑みに、いつの間にか警戒など忘れていた。
「…俺は、熱波、夏彦。」
そう呟くと、円堂守はにこにこ笑って「夏彦だな、分かった!」と手を叩いた。子供の様な仕種に小さな笑いが漏れる。円堂守は、俺の腕の中のサッカーボールを見て言った。
「俺もサッカー好きなんだ。」
円堂守は俺に「ボール貸して」と言い、そのボールを靴のつま先の方で思い切り蹴り上げた。ボールは真っすぐ上に飛んでいく。思わず「わあ」と声が出た。
「今度、おひさま園で一緒にサッカーしてもいいか?」
円堂守がこちらを向く。肌が月の光によって青白く見え、その首筋を垂れていく汗を見て、なぜか恥ずかしくなった。
「いつでも」

その夜、彼の首筋を汗が垂れていく夢を見て、これは恋だと気が付いた。




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