嫌いな人がいる。その人はとても明るくて優しくて、素敵な人だ。皆に好かれるその彼を、自分はどうにも好くことが出来ない。あの笑顔を見ると眉間にしわが寄った。
「風丸さんを引き抜かれたからかなあ、とも思ったんですけど」
紙パックのオレンジジュースを啜る。風丸さんはフライドポテトを口に入れると、ちらりとこちらを見た。
「可愛い後輩だな、おい。」
「今頃気付いたんですか?」
はは、と風丸さんが声を上げて笑う。しかし、僕は分かっている。風丸さんは怒っているということを。
「ずっと気付いてたよ」
風丸さんはとても面倒臭い人だ。自分の好きな人を好きな人は嫌い、自分の好きな人を嫌いな人は嫌い。先程、彼を嫌いだと言った僕に風丸さんは苛立ちを感じている。
「そうですか」
そう言い立ち止まる。風丸さんの家の前で、円堂さんの家まで近いこの場所に。
「僕、最近気付きました」
風丸さんの目を見る。その目には何の感情も篭っていない様に見えた。ただ夕日を映す綺麗な無機質な目玉だ。
「僕は風丸さんが好きでした」
すうっと息を吸う。この言葉を言ってしまえば、きっともうこの表面だけでも和やかなこの時はもう来ない。
「円堂さんを好きな者同士として」
風丸さんの目が光って、白い歯がちらりと見えた。しかし風丸さんは相変わらず無表情だ。
「僕は彼の笑顔が嫌いなんです。」
先輩の家を見上げる。ごく一般的に見える、比較的新しいこの家に、彼は何度来たのだろうか。
「僕はあまり見たことが、ないから。」
風丸さんは小さく笑って、片手を上げた。黒い学生服の裾にクラブのリストバンドが見えた。
「僕、彼が好きなんでしょうか」
風丸さんはまた笑うと、にっこりと柔和な表情を顔に貼付けたまま何も言わなくってしまった。




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -