海水に足を浸ける。この海は、マモルが住んでいる日本にまで続いているのだ。そう思うと海の冷たさもどうにも感じなくなった。
「風邪引くぞ」
マモルが小さく笑う。大丈夫だよと小さく呟いて、同じ様に笑った。
「ついに明日帰国だね」
マモル優勝おめでとうと手を叩く。マモルは照れた様に頭をかくと、ありがとな、と言った。
「本当に楽しかったよ。色んな奴とサッカー出来て良かった。」
色んな奴、の中に自分も一くくりにされている、マモル自身にそんな気はないだろうが、そうかもしれない思うと何故だか泣きたくなった。
「俺もさ」
会えてよかったよ、マモル。海の水を手の平で掬い上げる。透明な水は夕日にきらきら光って、指の隙間からさらさらと零れていった。
「ほら、マモル」
残り少ない水をマモルに向かって放つ。水に濡れたマモルは、「やったなー」とズボンの裾をまくり、海の中に入ってきた。この焼けた足ももう明日で見れなくなってしまうのだ。
「おりゃっ!」
マモルが足で水を蹴る。大きく飛沫が舞い上がって、俺にもマモルにも水がかかった。
「はははっ、馬鹿っ」
ずぶ濡れのマモルを笑うと、マモルは眉をひそめて頬を膨らませた。

「遊びすぎたね」
すっかり日が沈み、俺とマモルはくたくたになって砂浜に倒れ込んだ。マモルが歯を見せて笑う。
「いい思い出が出来た。」
マモルが起き上がる。それから俺の手を引いて、俺を立ち上がらせた。
「また、こんな風に過ごそうな。」
うん。そう頷いた瞬間、マモルを呼ぶ声がどこかから聞こえた。マネージャーの女の子のようだ。マモルは慌てて立ち上がると、手紙送るな、と俺の手を握って言った。思わずマモルを抱きしめると、マモルもまた抱きしめ返してくれた。でもマモルはきっとこれを挨拶か何かだと思っているのだろう。マモルが去っていくのを、マモルの影が見えなくなるまでじっと見ていた。目から涙がぽろりと零れた。その場に屈んで砂に指を這わす。好きだ、と書いた文字はきっと明日には消えてしまうのだろう。





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