始まりはここから



「終わった…」
風のようなスピードで走るキャラバンの中、士郎がそう呟いた。全部終わった、エイリアとの試合も、エイリア達のことも。後ろですやすやと寝息を立てる円堂をちょっと睨んで、それから溜め息をつく。あと数時間で別れるというのに、意識しているのは自分だけみたいだ。女々しい考えに頬を二発叩く。士郎が驚いた顔をして、それからにっこり笑った。
「…あとちょっとしかないよ。」
今時連絡手段なんていくつでもある。円堂のメールアドレスも知ってるし、聞けば電話番号も住所も教えてくれるだろう。それでも、やはり気持ちは直接伝えたかった。
「分かってる。」
小さな声で言ってそっぽを向く。窓の外の風景は太陽の光にさんさんと照らされていて、別れのムードもへったくれもない。綱海はなんか歌ってるし、一年は笑ってるし、修学旅行のバスかっつーの。
「はーあ」
何度溜め息をついたところで時間が止まるわけでもない。そう分かっていても、やっぱり溜め息をつかずにはいられなかった。

北海道行きの飛行機がある空港に着いて、士郎と俺の二人がキャラバンから降りる。見送りに皆がゾロゾロ行くのもどうだろうかということで、円堂と監督と染岡が代表して来てくれた。
「寂しくなるな。」
染岡が言う。士郎が笑って、メールするよと言った。俺も円堂にそんな風に軽く言えたらよかったのに。円堂の笑っている顔を見ると、他の奴にはすっと言える言葉も口で押しとどまってしまう。
「そろそろ時間よ。」
あらかじめ監督が取ってくれていた飛行機のチケットを渡される。士郎が俺をちらりと見て、それから円堂を見た。
「アツヤ、そろそろ行かなきゃ。」
急かすような言葉に胸がぎゅっとした。鼓動がいつもの倍の速さで動く。今言わなきゃ、今じゃなきゃ言えない気がする。
「円堂」
丸い円堂の目をじっと見つめる。きょとんとした様子の円堂は、やっぱり可愛いと思えた。
「俺、お前と、いやお前たちとサッカーできて楽しかった。」
いつもの円堂の台詞のようなことを言って、深呼吸を一つ。多分今俺の顔はトマトみたいなのだろう。
「短い時間だったけど、俺はお前に会えてよかった。」
我ながらくさい、ドラマも真っ青な言葉に士郎が少し笑っている。お前後で覚えてろよ。ドキドキして、目の縁に涙が乗っているのが分かった。
「…好きだ!」
思いの外大きくなったその声に、士郎や染岡だけでなく、監督まで目を丸くした。今まで胸の中をぎゅうぎゅう占めていた何かがストンと落ちた気がして、一気に体が軽くなる。円堂がふっと笑って、俺の頭に手を乗せた。
「知ってたよ。」
細い指が俺の髪をくしゃくしゃと撫でる。円堂の顔がいつもより近くにあって、顔がまた熱くなるのを感じた。
「お前のこと好きだから、お前のことばっか考えてたから、分かってたよ。」
歯を見せて笑う円堂は、女というには余りにも格好よかったけど、男というには余りにも可愛かった。目から涙が落ちる。これじゃあ完全に男女逆転の位置だ。「アツヤはかわいいな」と円堂が小さく笑う。お前のほうがよっぽとかわいいよ、ばーか。
「…じゃあ、また。」
名残惜しそうに髪から指が離れて、背中を軽く押された。染岡は満足そうに笑っているし、監督も何だか恥ずかし気に微笑んでいた。何より、大きく手を振る円堂の顔は耳まで真っ赤で、こちらまで赤くなってしまった。熱い頬をごまかすように声を張り上げる。
「またな!」

絶対お前よりかっこよくなるから、首洗ってまってろ!


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