※?←涼←円


「こんなの、初めてなんだ」
二流の恋愛ドラマの様な台詞を言うと、涼野は目を細めてこちらを見た。睨んでいる風なその仕草が、実はとても緊張している顔だと知ったのはつい最近だ。涼野は薄くて形のいい唇を開いて閉じて、また開いた。
「苦しいんだ」
「そうか」
「胸の奥が熱くて痛い」
「そうか」
「不意に泣きそうになる」
「そうか」
壁にかけた時計を見る。動かない秒針を見て、そろそろ電池を換えなければならないと立ち上がった。
「私は、病気なんだろうか」
戸棚を漁ると、直ぐに電池は見つかった。時計の古い電池を、ゆっくり外していく。
「違うんじゃないのか」
涼野の言葉は、全部使い古されたものだ。ドラマでも漫画でも小説でも最早飽きられかけている様な、そんな言葉。でも使い古されるってことはそれだけ魅力的なそうだ。
「…君は医者か何か?」
涼野が言う。お前さ、もしかして、俺が何にも考えずにお前の相談に乗ってると思ってんの?
「経験者は語れるんだよ」
時計に新しい電池を入れる。すると、秒針がカチコチ音を立てて動き始めた。時間は相変わらず狂ったまま、しかし規則正しく動く。
「君もなのか」
「いつもだよ」
「辛くないのか」
「辛いさ」
「すごいな」
涼野はそう言うと、ほんの少し口角を緩めた。俺だって苦しいし、胸の奥が熱くて痛いし、不意に泣きそうになるよ。
「痛すぎて涙も出やしないけどな」
恋だよ、と呟くと涼野は酷く驚いた顔をしていた。


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実は涼野の好きな人は円堂という設定にしようと思ったのに…




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