※一年後
朝、登校していた風丸を引っつかまえて駅へ行った。風丸は最初何やら言っていたが、俺が何も言う気がないと分かると黙った。適当に選んだ、行ったこともない場所への切符を買い、ホームに入る。俺は黙っていたし、風丸も黙っていた。掴んだ風丸の腕が熱い。不意に涙が出そうになったが、唇を噛んで堪えた。電車がホームに入ってくる。サラリーマンや学生が降りてきて、その後の電車はがらがらになった。電車に乗る。ドアが閉まって、風丸が溜め息をついた。
「どうしたんだよ、円堂」
「話がしたかったから」
電車は定期的なリズムで揺れる。風丸は驚いた様に目をパチパチさせて、小さく笑った。
「そうか、」
それから。風丸が入部してから世界優勝したことまでずっと語り合った。あの時はびっくりしただの嬉しかっただの悔しかっただの。風丸は時々笑ったり、困った様に眉を潜めていた。ぷしゅー、と音がして、俺らがいける最長の駅へ電車が止まった。風丸が腰を浮かせる。俺も立ち上がった。時計を見ればもう3時間もたっていて、それを風丸に言うと、完全なサボリだとにこにこ笑った。
「ごめんな、今日は」
「いいよ」
適当に選んだ駅は海に近い場所だった。海への道を歩きながら呟く。
「俺ら高校違うし、そうなったら今みたいに話せないだろ。」
そう言うと風丸は悲しげに目を伏せて、そうだなと言った。でもなごめん風丸、本当はそれだけじゃないんだ。
「さ、海で思いっきり遊ぼうぜ!」
風丸の背中を叩いて走り出す。風丸は声を上げて笑いながら追い掛けてきた。好きだよ、と風丸に聞こえないように呟いた。
(今日の思い出で、生きてゆくから)