「私は、卒業したら結婚かな。」
そう言って幸せを噛み締めるような顔をしたおシゲちゃんは、こちらを見て「乱太郎は?」と言った。ユキちゃんが口の端をきゅっと上げて笑う。
「医者でしょう?」
「一流忍者じゃなかったっけ?どっちにしても、色気のない選択肢ね。」
黒くて長いトモミちゃんの睫毛を見て、小さく溜め息をつく。余計なお世話だよ、の声は彼女達の可愛い笑いを引き出した。

三人と別れて、一人医務室へ向かう。後半刻ほどで伏木蔵主催の包帯まき教室が始まるからだ。六年間不運もとい保健委員に属す私は、おかげで包帯まきがかなり速い。そのため手伝いに駆り出されぎょわああああああああ
「また乱太郎か。」
「…また兵太夫か…。」
落とし穴の上から覗いてきたのは、にやにや笑う兵太夫だった。三年前卒業した作法委員の先輩が掘っていった数えきれない程の塹壕を、伝七が責任をもって埋めている中、彼だけはその穴に更にからくりを仕掛けるという鬼の所業をいけしゃあしゃあとやってのけている。今回落ちた穴にまだからくりが仕掛けられていなかったのは不幸中の幸いだ。
「何か考えごとしてた?いつもに輪をかけてアホ面してるよ。」
だから穴にもホイホイ落ちるんだ、と何も知らない下級生のくノ一達から持て囃されるその顔で、彼は暴言を吐いた。流麗な弧を描く彼の目がちらりとこちらを見る。
「ああ、うん。ちょっと将来の進路についてね。」
ただ「何も考えていなかった」というのも癪なので、先ほど三人と話した内容を言った。それを聞いた兵太夫は鼻で笑うように顔を歪め、それからすっと腕を組んだ。
「なに。医者とか一流忍者とかそういうのになりたいんじゃないの?」
「…。」
大当りである。たいして彼に自分のことを話した思い出もないというのに。何だかそれがまた腹に据えかねて、塹壕から這いでると、キッと兵太夫の方を見た。
「忍者になるには甘すぎるし、医者になるには、人脈とか金とか、基盤がなさすぎる。」
私の睨みなどまるで効かないかのように、彼は耳障りのいい声で、心に突き刺さる言葉をスラスラ言った。余りの夢の打ち砕かれっぷりに口を開けてぽかんとしていると、彼は言葉を続けた。
「何なら僕が紹介したげようか。生活安定、終身雇用。それから、乱太郎に一番向いてる。」
「なにそれ。」
本当になんのことか分からずに、間抜けな位驚いた声でそう言った。兵太夫は一年生の頃に戻ったかのような無邪気な笑い声を上げて、ふふんと鼻を掻いた。
「武家は結構いいと思うよ。」
「…女中ってこと?」
「違うよ。」
普段の倍以上大きな溜め息をついた兵太夫が不意に目を細めた。それから私の手をひっぱり穴から出すと、私の髪や服についた土をぱんぱんと掃った。すうっと息を吸う音が聞こえて、長い睫毛が伏せる彼の目が、こちらをスッと見据えた。
「ええと、だから、要するに、僕の妻になれよ。」


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みゆ様
→こんにちは!リクエストが遅くなってしまい、本当にすみません。
元気と萌えだなんて…!フオオ凄くうれしいです!!
(成長)兵太夫×乱♀、何だか青臭い話になってしまい…。書き直しいつでも受け付けます!
ネタメモも呼んで頂けてるなんて幸せです…!更新はとんでもなく遅いですが、そう言って頂けてうれしいです(´∀`)
リクエストありがとうございました!


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