ミストレーネが自分に気を使うを止めたのはつい一ヶ月前、円堂守への襲撃が失敗した直後からだった。彼の周りを取り囲む女子と同じくらい、いやそれ以上に気をつけていた肌の手入れをやめたり、髪の毛を櫛で梳かすなどという行為もすっかり見なくなってしまった。それでも元から持ち合わせたものなのか彼の容姿に大きな変貌はない。ただ前までは全くなかったちょこんと跳ねる枝毛や、甘皮がちくちくと出る爪など、ほんの些細なことがゆっくりと変わっていった。

「どうしたんだよ。」
自習中ぼうっと外を眺めていたミストレの肩を叩き、小さく耳打ちする。彼が振り向く際、以前ほど香らなくなったボディーシャンプーの匂いが鼻をくすぐった。まるで興味のない様子のミストレが首をかしげる。
「何が?」
「や、何かお前変だよ、最近。」
「そう?」
ミストレは長い睫毛を伏せながら、女みたいな顔をくしゃっと歪ませた。窓の外ではざあざあ雨が降っていて、これではサッカーが出来ないなと思った自分に何だか苦笑する。
「変って、どういうこと?」
ミストレがぽつりと呟いた。その様子を眺めている女子の視線など気にもとめていない。昔は手を振ったり、微笑んだりということをしていたというのに。
「や、何か身嗜みに気い使わなくなったっつか。」
「ああ、そのこと。」
何だと一言漏らすと、ミストレはちらりとこちらに視線を寄越した。暗い外の景色に対して、教室の電灯はきらきら明るい。
「もうなんか、今何しようが意味ないなあって思ってさ。」
白い手首が制服から見える。彼は俺に完全に向き直り、ふっと笑った。
「エスカバは、円堂守をどう思った?俺、あいつのこと好きになっちゃったんだ。今まで馬鹿にしてたけど、これは恋なんだよ。あんな奴見たことないもの、汚いこと何にも知らないって顔して、馬鹿みたいに笑ってて、俺が経験してきたの真反対の生活をしてる。楽しくてしょうがないって生活。」
ミストレが俺から視線を離さない。こいつ、今、何の話をしてるんだ。
「今まで俺さ、自分の見かけ好きだったし、それに寄ってくる女の子も好きだった。いつかこの中の誰かが俺の子供を産んでくれるんだと思うとたまらなく嬉しくって、もっと素晴らしい子孫を産ませるために外見に一層気を使った。でもね、円堂守はもう違うんだよ。子供は産めないし、色々違うし。それでももう会っちゃったんだから、飲み込まれちゃったんだから仕様がないよ。もう子供なんかどうでもいいんだ。俺はもうこのまま死ぬんだよ。」
そこまで言うと、ミストレは俺から顔を背けて、何事もなかったかのように自習に取り組み始めた。
「…こわっ」
俺の呟きは、ミストレには聞こえなかったらしい。


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六条サハラ様
→こんにちは〜!ウワアアいつも閲覧して下さってるなんてありがとうございます…!10万打という身にあまる光栄、本当にうれしいです(*´∀`)
リクエストして頂いたミス円ですが、電波さと意味のわからなさが壊滅的なハーモニーを醸し出していて申し訳ない限りです。いつでも書き直し受け付けます!
これからだなんて本当幸せです…!リクエストありがとうございました!

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