※一人暮らししてる不動

一日の時間帯の中で、夜が一番落ち着く。空は黒いというよりは濃い青で、そのすうっとした闇がまた目に馴染むのだ。チカチカ光を発するビルもちらほら電気が消えていくマンションも、酔っ払いの馬鹿でかい声も、全てが生活を感じさせる。今自分がこうやってぼんやりしてる間も、あくせく生きてる人間がいるのだと感じることが出来た。小さな頃、父母の喧騒にうんざりするたび外をうろうろと散歩したりした。こちらを見もしないカップルは幸せそうに笑う。ベンチで寝転がるサラリーマンは気持ち良さそうに眠っている。それが憎らしくて、けれど羨ましくて、外に出る度不快になったけれど、散歩はどうしてもやめられなかった。体に根付くほどのその習慣を止めたのは、一体いつだっただろうか。
「…っくし」
ぶるりと背中に悪寒が走って、窓をガラガラと閉める。ついこの前まで頬に当たる風を楽しんでいたのに、すっかり体が冷えてしまった。首に巻いたタオルは髪の毛のせいでぐっしょりと濡れている。その不快感に、洗濯機へとタオルを放り込んだ。ふと、携帯が机の上でぶるぶると暴れた。ディスプレイには「円堂」という文字が踊っている。ふうと溜め息をついて、ボタンを押した。
「不動ー!」
馬鹿でかい声がスピーカーという妨害をものともせずに耳に響く。耳の中でこだまする騒音は、皮肉にも心臓を跳ねさせた。
「…何だよ、うるせえなあ。」
「ふっふー、お前意外とくしゃみ可愛いんだな!」
「は?」
そう言った瞬間、下から大声が聞こえた。酔っ払いよりうるさい、カップルより耳をつんざく声。「近所迷惑」を具現化したような騒音と言っていい。
「不動!」
下から、受話器から、同じ声が耳に届く。とりあえず電話を切ると、パーカーを羽織って階段を駆け降りた。降りてやる筋合いはないが、近所の奴に注意されるのはめんどくさい。灰色のコンクリートがカンカン音を立てる。
「るっせーんだよ、お前はいっつも!」
階段から飛び出し、目の前でにこにこ笑う円堂に詰め寄る。彼は驚いた顔をしたものの、またすぐ笑顔になった。
「でも、何だかんだで不動は俺の電話無視しないよな。」
「お前がうるせーからだよ。んで何の用、ストーカーか?」
舌打ちと同時に言葉を吐き出す。そんなことをされても笑顔なこいつはネジがどっかぶっ飛んでるに違いない。
「ん?何か不動と話したかっただけ。」
そうサラリといいのける円堂に、殺意よりも先に呆れが出た。こんだけ俺を走らせたり慌てさせたりして、理由がそれだけとはひどい。がっくりと肩を落とす俺を見て、円堂はからからと笑った。ふつふつと湧き出るものの成分は、なぜだか怒りだけではない。さらさらした暖かいものが胸に詰まった。
「なあ、散歩しよ、散歩。」
弾む声が全身にのしかかって、それから染み込んでいく。そうして、そういえば一人で散歩しなくなったのは彼と出会ってからだとひっそり思った。


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匿名様
→はじめまして!10万打ありがとうございます(´∀`*)
リクエストの方ですが、円堂さんが只のトップオブザ唯我独尊ですみません…!勝手に一人暮らし設定までつけて、全体的にごちゃごちゃしていますね(´;ω;`)
書き直しいつでも受け付けます!リクエストありがとうございました!


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