チャリリと音を立てて彼の鍵から自己主張するものに、一瞬で心臓を奪われた。それは一見どこにでもありそうな、安っぽいキャラクターものの鍵だ。特徴といえばキャラクターの持つ白黒なサッカーボールくらいのものだろうか。その鍵を慣れた様子で揺らす彼を見て、ストラップが鍵の一部になったのは大分前のことなのだろうと一人思った。心臓がどきどきうるさい。視界にちらちらと皆の鞄が入ってくる。
「円堂、それ」
掠れた声が舌からちろちろ零れる。円堂はシャボン玉が弾けるように瞬きをすると、鍵に視線を落としてくすぐったそうに笑った。
「あー、この前休みだった日にヒロトと遊んでさあ、そん時に買ったんだよなあ。」
ちょっと俺には可愛すぎるだろ?そう呟くと彼はまたストラップを揺らして、眉をほんの少し下げた。
「でもヒロトがこれを俺っぽいって言うから。それにストラップ付けとくと鍵無くしにくいらしいし。頭いいよな。」
そう声を弾ませると、彼は何やら鞄をごそごそと漁りはじめた。円堂から目を離して部屋をぐるりと見回す。乱雑に置かれるスポーツバック、丸まったジャージ、制汗スプレーが混ざった独特の匂い。体だけでなく日常にまで染み込むそれらに、ふっと溜め息が出た。
「あー短パンあった!よっし風丸グラウンドいこうぜ。」
はっと意識が眼前に集中する。外からわあわあ聞こえる歓声から、紅白戦はきっと盛り上がっているのだろう。早く参加したい、早くサッカーがしたい。
「悪い、手洗い行くから先に行ってて」
そんな気持ちに反して、言葉は定型で出てきた。円堂は特に疑う雰囲気もなく頷くと、短パンを抱えてあっという間に出ていった。足音がどんどん遠ざかる。電灯のスイッチをぱちりと閉じると、辺りが薄暗くなった。心臓の奥の方で何かが音を立てる。ふらりと足を動かして彼の鞄に近付いた。心臓の音は止まない。チャックをゆっくり下げると、中からは先程の鍵がこちらをじっと見ていた。
「それどうする気?」
声がすぐ後ろから聞こえた。勢いよく振り向くと、無表情で、何の感動もないようなヒロトが立っていた。
「…お前、これさ」
そこまで言うとヒロトがポケットから何かを出した。円堂なものと全く変わらないストラップだ。それを揺らすヒロトが、先の円堂と重なって胃の中がざわざわする。以前俺は見たのだ。このストラップを自慢するように、わざとらしく鞄につけていた彼を。
「彼と同じものを持って共有したかっただけさ。ずっと円堂くんと時間を共有してたんだから、少しくらい許してよね。」
嫉妬は醜いし、汚いなあ。そう呟く彼の唇は薄い。彼が彼を侵略してしまう前に、その唇を噛みちぎりたくなった。


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匿名様
→はじめまして!100000打ありがとうございます!!(*´∀`*)リクエストですが、取り合いというよりじめじめした感じになってしまい申し訳ないです…!書き直しいつでも受け付けます!
リクエストありがとうございました!


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