「本日は甘えデーです!」
弾けんばかりの優しい笑顔でそう言ったヒロトは、俺がノーリアクションと見るや恥ずかしそうに顔を赤くした。普段雪どころか聖女の心より白い頬がじわじわと紅に染まっていく。
「…えっと、15点」
「円堂くん、一発ギャグのお披露目じゃないんだこれ…」
さっきまでのにこにこ笑顔はすっかり陰を潜めて、今のヒロトはただしゅんと体を小さくしていた。彼を冷静で穏やかと思っている人は多いし間違ってはいないが、本当の彼はちょっと発想が奇抜で恥ずかしがりやという面も持っている。
「甘えデーってどういうことだ?」
首を傾げて彼を見つめると、ヒロトは顔を輝かせて、姿勢をピッと正した。
「普段円堂くんは女の子なのにキャプテンとして頑張ってるでしょ。」
女の子なのに、嫌っていた言葉が耳を柔らかく刺激する。その言葉は自分を不快にするどころか、何だかうれしい気分にさせた。それは彼の言葉に嫌味がないからかは分からない。
「普段円堂くんは甘えられる方だから、たまには甘えてみたらどうかなって。」
ヒロトの目には期待がきらきらと篭っていた。人に頼られることを苦痛と思ったことは大してないし、自分も色々な人に甘えていると思う。けれど、ヒロトのその気遣いが何よりうれしくて、うんと大きく頷いた。
「で、具体的に何をしてくれるんだ?」
「うーん…円堂くんのして欲しいこと何でもいいよ。」
ヒロトが口元で孤を描く。選択肢がない幸せとは意外と難しいものだ。しばらく一休さんタイムが続いて、口を開けたのは数分後のことだった。
「じゃあ、抱きしめて」
そう言うと、ヒロトは一瞬目をぱちんとして「そんなことでいいの!?」と叫んだ。このベタベタ少女マンガ風の台詞を言う恥ずかしさに数秒ためらった俺の時間を返してほしい。
「うん」
「そう…じゃあ行くよ」
その声が耳に入るやいなや、体中がぎゅっと締め付けられた。正に文字通り抱き「締め」られている。ぎゅぎゅぎゅという骨の音を聞きながら「そういえばこいつはハイソルジャーだった」とぼんやり思った。
「…円堂くん、やっぱちょっと待って。俺には早いかも…。」
ぱっと体が解放されて、目の前に髪の色に負けないくらい赤いヒロトが俯いていた。何故だろう恋人に抱きしめられただけなのに体がすごい痛い。
「どうしたんだ?」
そう聞くと、彼は髪の毛の隙間からちらりとこちらに目をやり、それからぼそぼそと呟いた。
「その…、胸が当たると、恥ずかしくなっちゃって。」
「えっ」
瞬時に出た言葉に、ヒロトは顔を一層赤くした。それを見てこちらまで恥ずかしくなってくる。
「そ、そうかあ…。」
「…うん。」
「…。」
「……ごめんね。」
「いや…はは…。」

結局その日、甘えデーは何とも言えない空気のまま終了した。


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百花様
→お久しぶりです〜!100000打本当にありがとうございます!まさか自分こんな数字を迎えられるとは…!
リクエストの方ですが、何とも言えない残念な空気が漂っていて申し訳ないです…(^o^)/甘々な空気が一ミクロンでも存在していれば幸いです…。
サイト頑張ります!ありがとうございました!


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